2022年度 活動報告

期間:2022年4月1日〜2023年3月31日

 

 2019年12月初旬に中国の武漢市で1例目の感染者が発生してから、我が国では2020年初頭に、事実上は前年度末から中国の武漢を発祥地として世界中に広がってしまった新型コロナウィルス感染症(COVID-19 )は、世界中の誰もが予想していなかった、とてつもないパンデミック現象として我々の記憶に刻まれた。その蔓延が世界中の人々の日常の生活、経済に与えた影響は計り知れず、人類史上かつてない現象であることは、言うまでもない。

 当初は、当然治療法も確立しておらず、高齢者、基礎疾患のある症例に、少なく無い死亡例も報告された。海外では、特に都市部で一般人は外出禁止(ロックダウン)の体制を取り、蔓延を阻止しようとしたが、米国では死体を火葬場で処理しきれず、NYC郊外にトラクターに積んだまま放置されていた等の報告もあった。

 2020年4月~5月には感染者数(5月中旬までに15854人)と死亡例(668人)の急増もあり、第1次非常事態宣言を4月7日~5月25日(都道府県により段階的解除)に発令、その後も第2次非常事態宣言が、2021年1月8日(この日全国8045例、東京2459例)~3月21日、第3次緊急事態宣言(4/25~9/30)が断続的に実施された。同期間中に2つの症例増加(第4,5波)を認めている。コロナウィルスの変異株の出現もその都度話題となり、感染力の増大を認めたが、重症化は徐々に減少していく傾向も認められた。臨床現場で、抗リウマチ薬や中和抗体カクテルの点滴等が試され、有効性も報告が上がってきながら、ペクルリー(点滴薬)、ラゲブリオ、パキロビットパック、ゾコーバ等の内服薬も有効性を示して承認されてきた。それと平行して、2021年2月14日にファーザー社製の新型コロナワクチンが承認され、3日後より医療従事者に、4月12日より高齢者接種を開始、次第に若年齢層にも対象が拡大された。少し遅れて、武田/モデルナ製ワクチン、続いてアストラゼネカ製ワクチンも承認され、普及していった。私自身も2021年4月19日、5月10日の2回接種後、2022年4月27日3回目の接種を受け、徐々に海外渡航規制が緩和された5月下旬に、イタリア・シシリー島のカターニア大学でのタバコハームリダクション会議に参加することが出来た。

 但し、10月5日に4回目のワクチン接種(オミクロン株2価)を受けたにもかかわらず、11月25日、2日前に夕食で同席した友人からコロナウィルスを移され、発病してしまい近隣の病院に12月2日迄7日間入院することになった。勿論重症化はしなかったが、咽頭痛による嚥下困難、持続咳嗽による睡眠障害により、退院時にはそれなりに消耗していた。更に退院日に、何と嗅覚障害があることに気づいた。これは1月前後で回復した。

 2022年後半には、東京都内だけで数千例/日の新規発症、全国でも2~3万例/日が続いていたが、2023年1月にも新規患者造花のピークは認めたものの、興味深いことに重症化、死亡例の確率は高くなく、オミクロン株の感染力は高いものの、毒性は低いと考えられた。その影響もあり、その後、医療施設逼迫の傾向も認められなくなり、3月13日(月)からは、マスクの着用義務化が解除された。私も屋外歩行中は大体外している。

 5月の連休明けには、コロナウィルス感染症を感染症2類から5類に格下げすることも決まっている。

臨床医療活動:AOI国際病院の健康管理センター、病院上部消化管内視鏡

 コロナウィルス感染症の健康診断への影響は、かなり下がってきており、健康管理センターへの受診者数も、院内受診者が85~110人/日、巡回健診は多い日には5カ所で50~200人と増え続けており、月あたりの受診者数はそれぞれ2000人~4000人に及び、合計≧7000人になる月もあった。結果、年度末の予測受診者数は55000人を超し総売上げも昨年より6000万円ほど増加し、初めて8億円を突破する模様である。

 内視鏡検査については、今まで通り病院内内視鏡室と健診センター内視鏡室の両方で症例をこなしており、15~20例/日を実施中。健診センターの金曜日は定期のパート内視鏡医が未だ定まらぬ為、看護師の人員配置も加味して、月に1,2度数例~10例の範囲で、私が内視鏡検査を実施してきた。尚、4月以降は金曜日の内視鏡パート医も定期的に来てくれることとなった。

院外臨床活動

 汐留シティセンターのセントラルクリニックでの、毎週水曜日午前中の外来診察(健診診察6~7割、一般内科診察2割、循環器診療1割)も、今年度も継続している。診療人数も40-50名、結果判定が15名平均である。

 サルスクリニック日本橋は、2021年6月から毎週土曜日診療担当をしていたが、医療事務の対処能力に問題があり、それに加えて発熱外来を設置していて、コロナウィルス感染者の急増で、9:00-17:00診療時間も頻繁に超過気味になったこともあり、2022年4月からは第2,4土曜日のみの勤務へ削減して貰った。普段の健康診断では無く一般内科として、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を週末も診療をして管理していくと言う、若手理事長の意向に沿うには、人材的に不足の持続を感じ、残念ではあったが、結局2023年1月で退職した。

その他

 2020年後半より始めていた、北海道東部の町立厚岸病院で、毎月2泊3日前後の診療支援を続けている。過疎化の進む地方自治体の医療体制は、北海道の主要都市以外では問題がおおく、慢性腎不全患者に対する透析が大きな課題の一つとなっている。町立厚岸病院にも透析施設があり、透析患者管理を学んで支援できるようになってきた。このknow howは昨年3月から始めた、千葉市川市の大野中央病院での第1土日の日当直でも、透析室があるため、月曜日まで祝日連直の際役立てている。

心臓血管外科医師としての手術手伝い

 2022年度の心臓外科臨床経験としては、済生会横浜市東部病院でのTAVI(経皮的大動脈弁置換術)と川崎市立川崎病院でのPacemaker植え込み術の手伝いを実施した。

 TAVIの11症例の内訳は、77-96歳(平均85.0歳)で男性4例、女性7例で、使用した弁はSapien 3(Edwards)が9例、Evolute Pro+(Medtronics)が2例であり、特に重篤な合併症は認めなかった。

 Pacemeker植え込み術は、期間中5例で男性3例、女性2例、年齢74-91歳とTAVI同様高齢者ばかりであった。DDDモード Pacemakerが4例、VVIモード Pacemakerが1例で、後者の1例は、昨年と同様、近年話題のleadless pacemaker Micra(Medtronics)であり、Pacemaker本体が、リード線なしに右心室内に植え込まれるというものであり、非常に興味深かったが、最近このPMK植込みの結果、右室壁破裂が発生し死亡した症例が報告され、注意喚起されている。心房細動症例、女性例でのリスクが指摘されており、慎重な選択が必要と思われる

学術集会/討論会参加:今年度も、引き続きコロナウィルス感染症の影響で、殆どの学会が、Web開催となった。
4/14-16 第122回日本外科学会定期学術集会 熊本大学大学院消化器外科 馬場秀夫 会長

PD-03 重症大動脈弁狭窄症における外科治療戦略 座長:長崎大学心臓血管外科 江石清行/大阪大学低侵襲循環器医療学 倉谷 徹 (4/14)

PD-03-1 高齢者重症大動脈狭窄症に対するSuture less Valveの有用性 岡村記念病院 三和千里ら:人口の高齢化に伴いその年齢層での心不全治療でも、高度大動脈弁狭窄症(AS)は増加。TAVIが安全に行われるようになったが、困難例や他の手術を必要とする場合依然としてSAVRは重要な選択肢。2020年より使用が可能となったSutureless valveについて、自施設での成績を検討。 2020/3-2021/8の高齢者に対するSutureless Valve使用のSAVR42例のうちAS症例39例に対して、臨床成績をretrospectiveに検証。平均年齢82.9(77-91)歳、男性11例女性28例。同時他手術実施例は18例、単独SAVR21例ではmics手術8例、再手術2例。
Ao遮断時間、体外循環時間は、各々胸骨正中切開SAVR(開胸群)で平均43.1分、75.7分、micsで81.1分、116.7分で一般の生体弁置換術より有意に短かった。術当日の人工呼吸器離脱は、開胸群で40%、micsで62.5%と後者で有意に高かく、平均入院日数も有意差はなかったが、後者で短い傾向があった。弁のサイズは、XL1、L4、M9、S25例で高齢者の女性が多いためSが大半を占めた。Sサイズの平均圧格差は術前は51.2mmHg、術後が13.1mmHgと顕著に低下し、従来の生体弁サイズ19㎜の平均に比べ有意に良好。

結語:高齢者ASに対するSutureless valveの使用で従来の生体弁より良好な結果が得られた。特にmics手術ではAo遮断時間、対外循環時間も短縮でき、より低侵襲となり理想的である。

PD-03-2 重症大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術前のバルーン大動脈形成術の有効性 兵庫県立淡路医療センター心臓血管外科 高橋宏明ら:自施設では、TAVI治療を導入していないため、緊急性を要する重症ASの患者(心不全、失神、狭心痛を伴う症例)では、術前バルーン大動脈形成術BAVを施行し、急性期の心不全改善後にAVRを施行している。その治療法の妥当性を検討した。2015/4-2021/8のAVR60症例のうち、術前にBAVを施行した21例(平均年齢77.5歳、男性13例)とBAV未施行の39例(平均年齢75.4歳、男性19例:NBAV群)を術前・術後因子を含めて比較検討。BAV群のNYHA分類は 心停止で搬送された1例を除き、III度11例、IV度8例でうっ血伴う心不全12例、胸痛または失神を認めた症例8例、入院時Clinical Frail Score(CFS)は平均4.7。NAVBでは、NYHA I度4例、II度23例、III度11例で、CFSは平均3.4。結果:NYHA IV殿症例はBAV後全例II度~III度に改善、BAVからAVRまでの期間は平均88.6(中央値48.5)日。BAV施行前のJapan Scoreでの30日手術死亡率、主要合併症率の平均値は11.7%、32.3%。NBAVでは各々3.2%、14.6%と有意に低値であった。全例生体弁によるAVRを実施し、併施手術はBAVでCAGB5例、TVP4例、MVP3例で、NBAVではCABG7例、TVP8例、MVP4例。BAVではBAV前後にCPRを要した2例、AVR術中にAMIを起こした1例で手術死亡を認めた。耐術した19例の生存率は3年94.1%、NBAVでは3年で97.2%であった。

結語:重症AS例では術前のFraility が高く、BAVをAVRに先行して行うことで手術成績を改善できることが示唆された。

PD-03-3 当院ハートチームにおける大動脈弁狭窄症に対する治療戦略 熊本大学心臓血管外科 岡本 健:TAVIは当初SAVRのリスクが極めて高い症例を対象としていたが、デバイスの進化や大規模臨床試験の結果から、より低リスクな症例に適応拡大の動きがある。自施設では2015/6よりTAVIを開始し202例の経験を得た。全例ハートチームで検討し適応とデバイス選択している。同時期のSAVR374例と術後1年以上経過した例で比較検討した。2015/4-2020/8にASに対してSAVR332例、TAVI146例を実施、平均年齢は、SAVR75.6歳、TAVI86.1歳でTAVIでは女性の割合が多く、リスクスコアも高値。術前心エコーでもTAVI群でASの重症度は高かった。術後早期成績は死亡率がTAVI群で高く(0.3% vs 3.7%, p<0.05)、重度脳卒中は群間に差はなかった。これらの結果は術後1年の時点でも同様。術後心エコーデータ比較では、Vmax, PG meanともにTAVI群が有意に良好だったが、術後1年時点では、mild ARがTAVI群で多かった。(3% vs44%, p<0.01)平均観察期間2年生存曲線比較はAVRの方がやや良好ながら、有意差はなし。

結語:自施設のSAVRとTAVIの成績はともに良好で、患者洗濯も含め地路湯方針に問題はないと考える。

PD-03-4 重症大動脈弁狭窄症を有する透析患者における弁置換術の術後中期遠隔期成績の検討 大阪大学心臓血管外科 山下 築:TAVIの保険適応が始まって以降、重症AS+透析患者に対して至適外科治療戦略の検討は重要であるが、人工弁機能不全などを含む長期成績は未だ明らかで無い。自施設の当該患者の弁置換治療(TAVI或いはSAVR)を実施した術後中・長期成について検討。2012/1-2021/8に重症ASを有する透析患者137例(女性53例、年齢76.1±7.8歳STS Score11.8±9.2%、BSA1.5±0.2㎡)の手術症例を経験、TAVIを95例、SAVRを42例に施行し、術後平均観察期間は2.4±2.6年だった。手術時間133.9±85.6分、術後在院日数17.2±29.3日、院内死亡は4例(2.9%)に認め、TAVI症例では弁輪破裂、SAVRでは心房細動、非閉塞性腸間膜虚血、脳梗塞でそれぞれ1例を失った。遠隔死亡は59例(43.1%)に認め、術後中・長期生存率は1年81.0%、3年56.1%、5年35.3%だった。退院後1年以内の死因は敗血症6例、肺炎3例、脳出血1例、癌2例、衰弱1例、不明4例。遠隔期人工弁不全はTAVIで6例、SAVRで1例、遠隔期PVEはSAVRで1例に求め、置換弁に対する再手術回避率は1年98.2%、3年90.8%、5年85.5%。大動脈弁位の圧較差は、術前45.6±13.8mmHgが、術直後13.5±5.8 mmHg、術後1年12.4±6.8 mmHg、5年18.8±9.87 mmHgであり術後平均圧較差は有意に低く(p<0.05)長期に持続できた。

結語:ハイリスク透析患者でTAVI導入により重症AS患者の治療選択肢は明らかに広がり、有望な成績が得られた。他方術後1年以内の死亡で感染性疾患が過半数を占め、慎重な術前スクリーニング、術後ケアが必要である。

 PD-03-5 ガイドライン改定が重症大動脈弁狭窄症外科治療戦略に与えた影響とハートチームでの外科医の役割 久留米大学外科 高瀬谷 徹:自施設での2014年からのTAVI導入後も、それまでどおり重症AS患者でSAVRを基本としてきたが、TAVIの良好な治療成績と2020年の日本循環器学会弁膜症治療ガイドライン改訂により、TAVIも同等に評価してきた。2014/1-2021/7に自施設で実施した643例のASに対する外科治療(SAVR/TAVI)でガイドライン改訂の前後で2群(B群2014/1-2020/2の517例、2020/3-2021/7お126例)に分け比較検討。平均年齢:B/Aで78.9/80.8歳とA群が有意(p<0.03)に高齢、男女比、平均体表面積には差なし。手術の内訳は、B群でTAVI152例(29%)A 群73例(57%)塗工機でTAVIがSAVRを上回った。SAVRでもB/Aで単独手術が151/11例と減り、大動脈基部置換、機械弁の使用率、生体弁19mmのしより売りつけには差がなかった。術後院内死亡はそれぞれ19/2例と有意差は無く、1年生存率も91/96%と差はなかった。

結語:ガイドラインの改訂後、TAVI症例は増加しており、SAVRでは複合手術が増えている。高齢のAS患者では心疾患以外の合併症も多く、患者のライフタイムマネージメントを考慮してオーダーメードの治療選択が必要、両方のリスクを評価出来る外科医の役割は大きいと言える。

SY-12 :「重症心不全に対しての外科治療【International】」 座長:東京大学心臓外科 小野 稔、九州大学循環器外科 塩瀬 明 (4/15)
SY-12-1 Left Atrial Assist Device(LAAD) for patients with heart failure with preserved ejection fraction(HFpEF) Cleveland Clinic, USA Kiyotaka Fukamachi
拡張障害を呈するHFpEFは左房圧が上昇しており、その治療法は少ないがLAADは左房内に脱血を挿入して左房圧を下げ、左室内充満を増やして心拍出量を増加させる。実験的な研究で、6頭の牛で左室内バルーン拡張により拡張障害を惹起し、機械弁による僧帽弁置換を併用した。上記の手技で拡張障害モデルが上手く作成でき、LAADサポートによって、LAP、CO、更に大動脈圧が正常レベルに回復した。しかも動脈の拍動性は維持されていた。こうしたLAADの利点が、人間でも応用可能と考えられる。

SY-12-2 Altering Tendency in Heart Transplant in North America & Associated Mechanical Circulatory Support Brigham & Women’s Hospital/Harvard Medical School, USA Akinobu Itoh
過去3年の心移植患者の背景から、様々な適応条件が大きく変化してきた。LVAD装着状態の移植待機患者では、重篤な合併症などが無い限り、移植候補としては低い評価となり、一時的な循環サポートを必要とする症例が、LVADを介せずに優先して移植候補となる。更に最近では循環停止後の移植心提供(DCD)とXenograft移植が再検討されてきている。心停止後の移植心の還流システムも、すぐにでも商品化されつつあり、ドナープールの未知領域を広げつつある。1年生存98%と言うデータを報告したメリーランド大学でのXenograftの研究も今後新たなドナープールを拡大する可能性を秘めている。

SY-12-3 重症拡張不全心に対する非移植手術(僧帽弁手術・左室形成術)の適応と限界-重症不全心データベース(SURVIVE Registry)- 東海大学心臓血管外科 長 泰則ら

重症拡張不全心に対するgolden standardは心移植、補助人工心臓LVAD装着ながら、本邦ではドナー不足により標準治療には至っていない。その補填として僧帽弁手術、左室形成術LVRなど非移植手術が実施されるが、DCMにおいては大規模比較試験も実施されていない。STICH trailでは、viability評価は無く、volume reduction目的のSVRは否定された。

自施設のICMに非移植手術を実施、LVRはscar exclusion目的で、左室周経≧35%のScarを伴うasynergyに行い、≧中等度MRは僧帽弁手術を実施。SURVIVE Registry登録の180例のICMにLVR126例、僧帽弁手術77例(MAP61、MVR16)を施行。

INTERMACS profiling LVAD適応2-4群(n=88)、適応外5群(n=92)とした。全国おり登録された1622例中、DCMに非移植手術した106例を3群とし後ろ向きに検討。ICMの手術死亡5例(2.7%)、生存率、心イベントフリー生存はより軽症な≧5群で有意に良好な遠隔成績だった。LVR126例の中では群間に差はなし。DCM106例では手術死亡16例(15.1%)生存率はLVR126例追加例で有意に不良(p=0.0007)。心イベントフリー生存は MVR施行例で有意に良好(p=.048)

結語:SURVIVE RegistrのDCMではMVRによって重症でも良好な遠隔成績ながら、LVRを追加するメリットは無かった。他方ICMではより軽少な≧5群での成績が良く、早期手術介入が必要と考えられた。

SY-12-4 DT時代の重症心不全管理 ドライブライン感染の撲滅を目指して
名古屋大学心臓外科 六鹿雅登ら


LAVD治療における在宅中の有害事象予防の中でもドライブライン感染は致死的となる可能性が大きく重要な課題。2013-2021の8年間、植希美型VAD67例、87デバイスで行った。年齢中央値48歳、≧60歳導入6例、VAD補助期間中央値808日。ラインの皮膚貫通法は、A:ポケットから腹直筋を貫通させ右側に出すrt Direct法、B:ポケットから左回りで筋膜下を通すlt Triple法、C: ポケットから右回りで筋膜下を通すrt Triple法. シャワープロトコールは初期で直接、後期で被覆法、両プロトコールでの解析。病院死亡5例、遠隔死亡5例、心移植7例。生存率は、1年89%、2年84%、3年81%、5年81%。ドライブライン感染は8例で+。感染回避率、1年92%、2年84%、3年84%、5年84%。≧60歳で有意に発症率、遠隔感染回避が不良。貫通法別ではAが一番良好、シャワープロトコールもAが良好だった。結語:ドライブライン感染は皮膚貫通法にも影響を受け、シャワーも被覆法がやはり良好であった。


SY-12-5 急性心原性ショックに対する循環補助を3システムの機能不全で理解する九州大学病院 心臓血管外科 園田拓道ら

2015年の集計では、年間心不全症例は238840例、で前年度より10000例以上増加している。これらの中では、薬物によるサポートのみでは不十分で、Mechanical Circulatory Support(MCS)を必要とする症例も少なくない。急性期においてはIABP、PCPS、ECMOがその役割を果たしている。しかも患者の状態によってこれらを上手く使い分ける知識と経験も必要となる。
2017年9月に承認されたカテーテル型の補助循環装置は興味深い。これは単体よりも他のMCSと併用することでその効果が更に期待され、VA ECMO+IMPWLLA(ECPELLA)と言う形で使用され始めている。自施設のECMOセンターでは、急性心原性ショックの治療で、3システムの機能不全に着目している。右心、左心、呼吸器系である。例えば劇症心筋炎では、3システムの機能不全故、VA ECMOを先ず導入し、つづいてIMPELLAや、LVADを併用していく。状態の改善と供に2,3システムを徐々に減らしていくという方針である。
この3システムの機能不全の考え方は、心不全治療に大変有用と考える。


SY-12-6 我が国における心臓移植待機患者の生存率改善を目指して東京大学心臓外科 安藤政彦ら

米国のような移植心の供給に対する劇的な制度改革は、医学的に緊急を要する患者を優先しているが、ドナー不足の日本ではそれすらも中々容易ではない。我々の目標は移植待機患者の病態悪化を最小限とすることにあり、LVADの役割は大きい。2003-2021の間、563例の移植候補者が登録され、そのうち18歳未満と移植前に他施設に転送されたものを除き449例でLVADを要した群379例と要しなかった群70例に分け検討。年齢は平均43 vs 45歳と有意差無く、DCMはLVAD群で62.0%(vs 48.6%,p=0.049)と多かった。観察期間平均4.0年の間に149例が移植を受け、148例はLVAD群で有った。10年生存率は、non LVAD群で低い傾向(76.0 vs 57.5%,p=0.121)にあり、移植前の累積死亡は、non LVAD群で高い傾向(12.6 vs 7.0%,p=0.111)だった。この差はDCM例で顕著(13.5 vs3.5%,p=0.015)だった。
これはLVAD不要例のDCMではLVAD装着を早めるべきと言うことを示唆していた。結語:移植待機期間の死亡は米国に比べ、日本では少なかったが、DCM症例での早めのLVAD装着が鍵と考えられた。

SY-12-7 長期LVAD治療戦略 大阪大学心臓血管外科 戸田宏一ら

植込み型LVADは移植までのブリッジとして末期心不全患者に、2011年に承認された。昨年のLVAD植込みは1100例の報告があるが、日本での心移植実施は150例/年程度。J-MACS登録では、初回LVAD装着後の患者の生存は90%で、諸外国の報告よりも優れていた。しかし、ドナー不足の日本ではLVAD装着後平均で3年以上待機しなければならない現状がある。過去10年間でLVAD患者の8%はRVADを必要とし、自施設での6例の両心補助例では、4例で移植を受けられたものの2例は284日後と511日後に死亡した。更なる挑戦としては、LVADの感染防止である。自施設でのドライブライン感染回避率は、1年が86.3%、3年が69.1%であった。13例がDL感染で再入院をやむなくされ、一部は機器交換が必要だった.他施設の状況も伺った上で検討を加えたい。

5/31 CoEHAR National Conference on harm reduction: risks and benefits of combustion-free products:University of Catania, Italy (CoEHAR: Center of Excellence for the acceleration of Harm Reduction, in collaboration with LIAF: Italian Anti-Smoking League)  

同大学で毎年開催されている、首記会議で「日本の加熱式タバコの現況」について講演して欲しいと、主催者のProfessor Ricardo Polosaから依頼を受け、コロナウィルス感染症で中断していた海外渡航を再開することとなり、現地に向かった。

イタリアは欧州の中でも数少ない加熱式タバコ(特にIQOS)の、日本とほぼ同じ時期の導入国であり、Polosa教授自身が、IQOSの使用によって、慢性閉塞性肺障害COPDの患者の臨床的な悪化が抑えられたという研究報告を発表してまもなくのことであった。

発表内容は、近年の日本の加熱式タバコの普及状況から、紙巻きたばこの消費量の減少が、喫煙率と同様、加熱式タバコによって更に加速された事実。そしてそれが、紙巻きたばことの併用(dual use) 、新規喫煙や禁煙者の喫煙再開(initiation、re-initiation)、若年者の喫煙開始(gateway effect)等のマイナスの側面を示しては居ないことに加えて、直近の臨床的な有効性に関するデータ集積として、韓国の疫学調査で心血管病のリスクは、禁煙者、加熱式タバコ使用者、喫煙者の順に低かったこと、更にPolosa教授のCOPD患者における効果等があると説明した。日本で同様の臨床試験が開始されつつあることも加えた。(添付の発表スライド参照のこと*Japanese Experience Tobacco Harm Reduction with Heated Tobacco Products)

6/17-19 第22回日本抗加齢医学会総会 大阪府立国際会議場/会 長:阿部 康二 (国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター病院病院長)

シンポジウム1アンチエイジングと認知症予防 座長:国立精神・神経医療研究センター 阿部康二、東京都健康長寿医療センター 岩田 淳

SY1-1 脳のアンチエイジング研究最前線 国立精神・神経医療研究センター 阿部康二
ヒトは血管と供に老いると言う言葉どおり、全身の血管内皮細胞を若々しく保つことは重要。中でも脳は酸化ストレスに弱いため脳の病気は老化と関連が深く、脳卒中、ALS、アルツハイマー病、パーキンソン病などが代表。酸素を有効利用して生命を享受する生物は、生下時より酸素毒性の十字架も背負っており、アンチエイジングはこのように時間と酸化ストレスによって起こる老化を抑えることである。最近の研究で、認知症のような脳の老化はアミロイド沈着だけでは説明が付かず、慢性低還流や酸化ストレス、炎症と深く結びついていることが分かってきた。自分の長年の脳と酸化ストレスの研究で、2001年世界初のエダラボンの脳保護効果が医療現場に還元され、2015年には世界初のALSの脳脊髄保護薬として適応が追加された。又サプリメント学会の報告から、魚油、トコトリエノール、ポリフェノール、プラズマローゲン、鯨肉のイミダゾールペプチドの抗酸化作用も明らかになってきて、今後が更に期待される。

SY1-2  多様なディバイスやAIを活用した新しい認知症診断 岡山大学脳神経内科 山下 徹
人口の高齢化に加え、アミロイドβを標的とする抗体療法の出現で、軽度認知障害(MCI)及び認知症の初期段階を診断する必要性が高まっている。この段階での疾患の早期発見と初期治療の為の簡易スクリーニング検査の発展が重要となる。

当科でではコンピューター化されたタッチパネル型スクリーニングテストを用いて、認知機能、情動機能、日常生活動作(ADL)の比較検討を行い、認知症を正常から区別し、且つMCIを正常から区別することが可能であると明らかにした。さらに、AIを用いた見た目年齢と感情の評価、非侵襲的な光干渉断層撮影(OCT)検査を用いた網膜アミロイドの検出に成功し、多様な手法を用いて新たな認知症診断技術の確立に挑戦してきた。

SY1-3 新型コロナmRNAワクチンが引き起こす認知症とエイジングの予防 岐阜大学科学研究基盤センター 犬房春彦ら

新型コロナ感染症を引き起こすSARS-Cov-2ウィルスの感染爆発は世界中で医療面の大きな転換期を迎えた。新型コロナウィルスの表面のスパイク蛋白質が炎症を惹起し、過剰な酸化ストレスによって多種多様な症状を生み出すことは明らかにされてきたが、スパイク蛋白質遺伝子を使ったmRNAワクチン接種でも認知症状や、見た目年齢の増加などエイジング症状が報告されていると言う。演者らが開発した抗酸化配合剤サプリメントTwendee X(TWX)は日本認知症予防学会主催で行われた二重盲検・多施設・前向研究の臨床試験で認知症予防効果を確認済み。mRNAコロナワクチン後遺症患者149人のモニターアンケートで、疲労感、呼吸困難、胸痛、嗅覚・味覚障害、頭痛、ブレインフォグ、関節痛、めまいを6段階評価。4週間の内服ですべての症状の重症度スコアが有意(p<0.05)に低下した。頭痛・ブレインフォグでは重症度3以上の患者で、スコアが半減していた。

このデータから、コロナウィルス感染だけで無く、コロナウィルスワクチン接種でも副反応や後遺症が全身的な酸化ストレスによって惹起され、抗酸化物質によって緩和する可能性がある。

SY1-4 地域における認知症予防と診断 群馬大学大学院脳神経内科学 池田佳生ら
認知症を巡る政府の取組として、2019/6「認知症施策推進大網」が策定され、認知症でも尊厳と希望を持ち、住み慣れた地元で自分らしく生きる「共生」目指して、発症や進行を遅らせる「予防」をキーワードとして推進していく方針が示された。群馬大学附属病院認知症疾患医療センターにおいて、診療活動として、地域方センター間の連携と支援、鑑別診断に重点を置いた認知症診療、県内の認知症啓蒙活動、研修会や講習会の開催を行った。更に臨床的にアルツハイマー型認知症と診断した患者を対象に、アミロイドPETとMRIを用いた脳画像解析、MCI及び早期認知症を対象とした認知症進展要因に関する解析を実施。

結果・結論:アミロイドPET陽性認知症患者は陰性患者よりも高度な虚血MRI所見を伴っており、アルツハイマー型認知症患者のAβアミロイド沈着の重症度(mcSUVR)は虚血性MRI所見の重症度と負の相関を示したことより、アルツハイマー型認知症患者における虚血性病変の合併はアミロイド病理のより早期での認知症発現に関与しているのもと思われた。また、MCI/早期認知症の認知症予防における脳血管危険因子の管理とポリファーマシーへの配慮が重要である。

他に
特別講演1 アーミッシュ・心と身体のアンチエイジング 翻訳家 堤淳子

アーミッシュは米国のペンシルベニア、インディアナ、オハイオ州などの田園地帯に住むキリスト教再洗礼派の一派で、電気を使わず車も持たず、1800年代初頭の生活をそのまま続けている集団。WHOの集計では、2016年米国民の平均寿命は78.5歳だがこのアーミッシュらはそれを少し上回る程度。しかし1900年の時点で彼らの平均寿命は50歳を優に超え、米国全土の平均47歳を上回っていた。直近の調査でも肥満率は4%(米国全土は31%)、糖尿病の罹患率も米国全土に比べるとかなり低い。彼らを診療している医師達の意見でも、高齢者の健康寿命が全米よりかなり長いとのこと。米国内の大学が彼らの健康の秘訣を研究しているとの報告。

私の姉が50年ほど前に渡米してアーミッシュの家族と1月過ごし、大変興味深い人たちだと話していたが、アンチエイジングな生き方だったのは、微笑ましい限りである。

特別講演2 Muse細胞がもたらす医療イノベーション 東北大学 細胞組織学 出澤真理ら

生体内に存在する腫瘍性を持たない修復多機能細胞であるMuse細胞。骨髄から血液を通じて定常的に供給され、到達した細胞に自発分化し障害細胞を置き換えて様々な組織を修復すると言うもので、近年はドナーから抽出して経静脈的に投与されるようになった。免疫拒絶も免れ、HLA適合免疫抑制剤なしに分化状態を維持して組織内に生存できる。遺伝子導入による多能性獲得や分化誘導操作が不要であり、点滴投与で傷害部位に選択的に集積するため、外科手術も不要。既に7つの疾患で治験が実施され、どれもHLA適合、免疫抑制剤併用が無く、ドナーMuse細胞の点滴投与のみ。脳梗塞患者のプラセボ二重盲検比較試験で、急性期治療後も中等度~重症の身体機能障害+の発症後14~28日以内投与で、有害事象はなしに、公共交通機関で移動するほどの機能回復を見ている。
非常に画期的で今後の衣装の変革に期待が持てる治療法と思われる。

教育講演3 血管不全と抗加齢医学 東京医科歯科大学先進倫理医科学分野 吉田雅幸

以前から循環器領域での基礎研究で多くの論文を発表している吉田先生、彼もW Oslerの言葉、「ヒトは血管と供に老いる」を引用し、今回はVGEFの内皮細胞に対する影響から老化防止について触れた。血管壁の面積比も動脈:毛細血管=1:1000と言うことからもわかりやすい講演だった。

会長企画シンポジウム4 フェムテックと人生100年時代のアンチエイジング
座長:川崎医科大学産婦人科 太田博明、(株)サンルイ・インターナショナル 森田敦子

座長の他、fermata(株)の中村寛子、東京労災病院産婦人科 太田邦明(太田先生の息子)、浜松町ハマサイトクリニック 𠮷形玲美の講演

聞き慣れない「フェムテック」とは、female(女性)とtechnology(テクノロジー)を会わせた造語であり、2012年にドイツで始まりその後欧州に広がった考え方。要は女性特有の健康管理に関わるテクノロジーについての重要性を元に活動が始まり、企業としても増えている。生理、妊娠、出産、更年期、セクシュアルウェルネスをテクノロジーで解決しようとする。欧米では既に484社が設立され活動にもかかわらず日本には未だ殆ど無い。目新しい考え方であり、どれも大変勉強になる講演だった。

9/2-3 第63回日本人間ドック学会学術集会 千葉徳州会病院婦人科部長 佐々木寛 会長
教育講演3:女性検査の特徴について  三楽病院臨床検査科部長  東條尚子
男女による体格・生活習慣の違い、女性特有の加齢によるホルモン分泌の変化などに伴い、臨床検査は変化する。男女差・年齢差の程度が弱く無視できる項目、男女差のある項目、女性特有の年齢変動を認める項目があり、女性の臨床検査の特徴について述べる。

男女差のある項目:JCCLSの共用基準範囲において男女別に基準範囲が制定されているのは、Cr、CK、RBC、Hb、Ht、UA、γ-GTP、TG、HDL-C、ALT、ChE、IgMの1項目である。CrとCKの値は男性>女性で、その差は筋肉量の違いを反映しているとされ、高齢者では差が少なくなる。RBC、Hb、Htも男性>女性となる。男性ホルモンは腎臓でのエリスロポイエチン産生促進作用を持つことが要因の一つである。又、閉経前の女性には生理出血が有るためこの年齢層で差が大きく、更年期後には差が小さくなる。UAも男女差が大きい項目で、女性ホルモンには腎臓から尿酸を排泄させる作用があるからとされている。男性では過食傾向が強く右肥満の頻度が高いこと、又飲酒習慣を持つ人が多いため、男性のTG、γ-GTP、ALT、ChEは女性より高い。女性ホルモンにはγ-GTPの分泌を低下させる作用があることも男女差の誘因である。HDL-Cは年齢によらず一貫して女性の法が高い。これは女性ホルモンにHDL-C産生促進作用があるためとされる。IgMはすべての年齢層で女性の法が男性より高い。

閉経後に上昇する項目:女性の<45歳と≧45歳で比較した場合、TG、TC、LDL-CALT、LDH、ALP、γGTP、ChE、CKは≧45歳で上限変化率が大きく、平均値が上昇していたと報告されている。例えば、LDL-Cは<45歳で62~149mg/dL 、≧45歳で73~178mg/dLである。TCは<45歳で137~242mg/dL、≧45歳では161~276mg/dLであった。人間ドック学会と健保連による150万人のメガスタディによると、女性のHgA1cは加齢で増加する。

最後に:女性の臨床検査では、男女差のみならず年齢により変化する項目が多い。これらの変化は継続して人間ドックを受診している閉経後の女性の健診結果において、日常でよく遭遇する。併記されている基準範囲や臨床判断値からは読み取れないので、受診者への結果説明などの参考にしていきたい。

教育講演5 性別不合/性同一性障害当事者と人間ドック 岡山大学大学院看護学専攻教授、 岡山大学ジェンダークリニック 中塚幹也
トランスジェンダーとは「社会に割り当てられた性(通常、身体の性から決定される)」と「実在する性(性自認、心の性)」とが一致しない状態である。このうち、ホルモン療法や手術を希望し医療施設を受診した場合の診断名として「性別不合/性同一性障害」がる。岡山ジェンダークリニックを受診した性別不合当事者を見ると、約9割が中学生までに性別違和感を自覚し、不登校は3割、自殺企図は6割、自傷・自殺未遂は3割と高率に経験、うつや不安症などの精神科的合併も約17%と高率である。これには、家族、学校や職場の人々、法律や制度、そして国民の意識など外的要因が影響している。

要望講演5 子宮頸がん検診おけるHPV検査導入に際して 慶應義塾大学医学部産婦人科 青木大輔

2018年度地域保健健康増進事業報告では、CIN3と浸潤がん(≧CIN3)の発見率は0.14%。CIN1、CIN2の発見率は0.56%で、それらの大部分は浸潤がんに進展しないにもかかわらず医療管理下に置かざるを得ず、健診受診の恩恵があるとは言い難い。この状況を過剰診断と呼び、偽陽性や偽陰性、検査により医療処置が必要になる偶発症と共に健診の不利益と定義され、受診ごとに一定割合発生する。偽陽性については感度から推定され、「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン2019年度版」では、≧CIN3に対する統合感度を0.658(0.356-0.882)と算定している。HPV検査は細胞診に比して感度が高く、上記ガイドラインでは、≧CIN3に対する感度は細胞診の1.347倍(1.016-2.077)と算出、がん罹患率減少や死亡率減少に結びつく可能性がある。しかし現実は高い受診率の確保だけで無く、がん検診の実施、要精検者の取り扱い、CINの管理、生検に基づく診断と治療に至るまで適正運用が出来ないと、HPV検査でも浸潤がん罹患や死亡の低下に結びつかない可能性がある。一方HPV検査を用いた検診では要精検率は7-8%程度に増加し、偽陽性が増加する。よって、HPV検査の導入には、効果を最大限に、不利益を最小下にする努力が必要。

上述ガイドラインでは、細胞診、2年に1回による浸潤がんの罹患率減少と同等の効果を得て、且つ不利益を細胞診と同等に抑えるには、HPV検査単独で5年に1回を推奨しており、20歳代ではHPV検査の偽陽性率の高さを考慮し、対象年齢を30-60歳に限定している。健常人を対象にした住民検診プログラムは、効率の見込みのみならず、不利益の最小化と精検受診の最適化を図っており、HPV検査陽性で病変の無いものの検診後管理をどうするべきか検討中である。職域検診では、職域におけるがん検診マニュアルがあり、住民検診のプログラムと運用を踏襲している。

検診施設では、検診効果を上げるため、精検受診率を≧90%とすることが求められ、現状の要精検率2%程度の細胞診による検診でそれを実現することが、要精検率7-8%のHPV検査の準備となる。検診従事者にはWHOによるスクリーニングプログラム:ガイドブックがあり、受診者に対してもがん検診の効果と不利益を紹介する動画も同じサイトから閲覧できる。

特別講演4 子宮頸がん予防~日本の課題~ 横浜市立大学病院産婦人科 宮城悦子

子宮頸がんを含むHPV関連がんの1次予防に向けて世界は着実に前進し、男女区別の無いHPVワクチン接種、若年者の2回接種、子宮頸がんの90%を予防する9価ワクチンの導入が推奨される。WHOは子宮頸がんのElimination Strategiesとして、15歳までに90%の女子がHPV ワクチンを受け、35・45歳で70%の女性が感度の良い子宮がん検診を受けるという目標を揚げ、その実現には高所得のみならず、中・低所得国の達成可能であるとしている。HPVワクチン接種プログラムに成功した国々の中で、スウェーデン・英国・デンマークから浸潤子宮がん予防効果が示されたことは、WHO目標の実現が可能であることを示唆している。
日本のHPVワクチン接種プログラムは、機能性身体症状と考えられている慢性疼痛や運送障害などのワクチン接種後症状が問題となり、、2013年6月より厚生労働省から定期接種の積極的奨励の差し控えが通知され、接種がほぼ止まっていた。が、2019年末頃より政治的な動きに加え厚労省からの動きとして、自治体単位でワクチン接種が定期的であることを告知する流れが始まり、1割程度の摂取率増加が報告された。曽於ごついに厚労省の専門部会でのHPVワクチンの効果と安全性の評価により、2022年4月から接種奨励差し控えの中止と従来の12-16歳の定期接種に加え、25歳まで接種機会を逃した女性への3年間のHPVワクチン無料キャッチアップの方針が示された。この施策を有効に活かすため、定期接種対象女性の高い摂取率を回復し、性交渉開始後の女性にも一定率効果は期待できるものの、性交渉前接種よりも予防効果が低く検診がより重要となることを啓蒙していかねばならない。

WHOは予防接種ストレス関連反応(Immunization Stress-Related Response: ISRR)と言う概念を公表。内容は、接種前・接種時・接種直後の急性ストレス反応として、ソワソワ感、不安感、呼吸困難・過換気、頻脈、迷走神経反射、失神などを呈する症状とし、接種後しばらくしてから解離性神経症状的反応と呼ばれる、脱力、麻痺、異常な動き、四肢の不自然な姿勢、不規則な歩行、言語障害など明らかな神経学的根拠のない症状が見られるとしている。ワクチン接種前後の不安を契機に生じる一連の痛みや恐怖症、身体変化は周囲や社会環境の影響を受けやすいとされ、ISRRを防ぐには接種者による丁寧な説明、丁寧な接種、信頼構築が必要としている。

10/6タバコハームリダクションシンポジウム(都市センターホテル):昨年に引き続き、直近の海外学会発表や、イタリアのRicardo Polosa教授による、加熱式タバコのCOPD患者に対する臨床経過への影響(3年間で臨床症状の憎悪と入院が減少したという興味深い報告)を加えて発表した。以下の参加者がそれぞれ発言し、政治家の立場から、紙巻きたばこに比べて加熱式でリスクが減るのであれば、それに対する課税を減ずると言う意見が出ていることも含め、中々国内で会合がないテーマについて討論がなされ、興味深い会合だった。(発表スライド:「タバコハームリダクションの現況)は別途添付**)

田中和徳衆議院議員(自民党次世代たばこ研究会会長、元復興大臣)
宮内秀樹衆議院議員 (自民党次世代たばこ研究会事務局長、元農林水産副大臣)
門倉貴史(エコノミスト、BRICs経済研究所代表)
一般代表 北山伸 氏、辺見美咲 氏
司会進行 津島亜由子 氏
11/7 THR Expert Roundtable Network MeetingにWeb会議で参加しCurrent THR Status in Japan(スライドは添付***参照のこと)と言う演題で日本のタバコハームリダクションの現状の報告を行い、他国のKOLたちと討論。昨年とは違う組織による主催ながら、同様にAsia諸国では、当局の理解、知識不足で、加熱式タバコや電子タバコを受け入れず、むしろ禁止しようとしている国など、多様性に富んでいることを再確認した。(台湾、オーストラリア、ニュージーランド、インドネシア、マレーシアが参加)

2023/3/10-12 第87回日本循環器学会 ハイブリッド開催 福岡国際会議場/九州大学大学院医学研究科 循環器内科 筒井裕之 会長

シンポジウム1 血圧のウェアラブルデバイスとSociety5.0

座長:関西医科大学健康科学センター 木村 穣、国際医療福祉大学大学院医学研究科循環器内科 岸 拓弥

SY01-1 Contactless Hypertension Monitoring Population Indifferent to Health 東京大学循環器内科 内田亮子ら

家庭血圧測定器などの普及で、健常者~軽症高血圧の血圧モニタリングが容易になりつつあるが、自分の健康に無関心な人には使われない現状がある。例えばアップルウォッチに見られる工夫のように、心電図から不整脈を検出し、酸素飽和度の測定機能が付くことで更なる普及の傾向はあっても、装着自体に面倒を感じるものも少なくない。そこで我々は非接触型のAIによる高速スペクトラムカメラを用いて血圧を感知する機器を開発した。この装置を使えば高血圧を早期に、且つ94.2%の精度を持って検出できる。(演者の希望でオンデマンドなし)

SY01-2  Bi-directional Algorithms Predicting Blood Pressure & Associated Brain Damage Based on Brain MRI 東北大学病院循循環器内科 鈴木秀明ら

脳と心臓の関連は、脳を新皮質、辺縁系、脳幹、脊髄の4つに分けた場合、脳幹と脊髄によって自律神経系を介して支配されている。しかし認知脳としての新皮質、感情脳としての辺縁系の影響も受けている。既に脳幹のRVLM(rostral ventrolateral medulla)における酸化ストレスによって交感神経興奮がおき、血圧が上昇する機序が証明されている。マウスで、髄腔内にヒスタミンを投与すると血圧と心拍数が上昇することを自身の研究で示したが、ヒトでも直腸を伸展刺激することで辺縁系が活性化されて心拍数の上昇が認められ、その際の脳血流測定の結果、脳幹だけで無く辺縁系の活性化が関与することが分かった。また、以前から知られているが、てんかん患者における実験的研究で、脳皮質の左側を電極で刺激すると迷走神経が活性化し徐脈と血圧低下を認め、右側を刺激すると交感神経活性化で頻脈と血圧上昇が起こるという結果もある。更に循環器疾患の中で女性に多いとされるたこつぼ心筋症は、脳幹部に梗塞を起こすと発症しやすいとされ、自験例でも脳幹部に起こした多発性梗塞の結果、たこつぼ症候群を認めた。同症例で脳幹部の血流をMRIにて測定したところ、発症直後に血流上昇を認めたが、回復期には正常化していた。ここで、日本における脳研究の優位性について考えると、我が国は人口あたりのMRI保有数が世界1(52台/100万人)だと言うことは重要。それに関連して東北大学加齢医学研究所の脳医学研究の成果を社会に送り出す目標を持つのが、CogSmartと言う会社。ここで余談ながら脳の可塑性について触れると、側頭葉に位置する記憶を司る海馬の容積が、有酸素運動によって増え、運動不足では減少してしまうと言うデータがある。自身の研究で10000人のMRI画像を解析した結果、高血圧、糖尿病、アルコール性肝障害などの生活習慣病では、それぞれに特異的な脳の部位での変化を認めることが分かった。つまり脳の画像データから逆に将来の疾患を予想できる可能性があると言うことになる。例として、本人の実年齢と脳の画像年齢(脳年齢予測アルゴリズム)にズレが生じている場合、画像年齢が進んでいる例ほど認知症を発症しやすいという研究結果がある。このことよりある時点で正常血圧である対象の脳のMRI画像から、アルゴリズムを用いて将来の血圧を予測し実測とどう違うかを551例で検討した結果、192例で縦断的に検討が出来て、奨励的な生活習慣秒の予測が可能と考えられた。この仮説の検証は線形アルゴリズムの解析の結果である。この結果の応用として、CogSmart社から、MRIで計測した海馬の容積から将来を予測すると言うサービスを開始、認知症などを含めた脳の将来の変化に加えて、血圧の予測も出来ると思われる。健康診断で行うMRIでT2強調映像から算出できるもの。逆に血圧から脳の変化を引き起こすと言う事実は、SPRINT研究の結果で認められた。この試験ではMRI検査も実施しており、灰白質の病変面積が血圧の厳格管理:SBP≦120mmHgの方が、通常管理≦140mmHgより少なかったという結果で示されている。これは、脳血流が脳表面から供給される血流の、高血圧つまり動脈硬化によって低下をきたし、還流障害を起こすことによる。脳ドックを受診している受診者は全人口の2割と言われ決して多くないが、健康診断で血圧は皆測っており、今回の研究で示すようにMRI画像から将来の生活習慣病を予測するだけで無く、逆に血圧から将来の脳病変を予測しうることから、MRIのような費用の掛かる検査を受けずとも、安価な血圧値から脳疾患を予測することで、国民が利益を得ることが出来、それによって今後脳ドックを受ける人も増えると思われる。

SY01-3  Impact of Wearable Device on the Occasions of Home Blood Pressure Measurement in Patients with Hypertension: A Randomized Controlled Trial 大津市民病院循環器内科 谷口琢也ら

日本の高血圧患者4300万人のうち管理不良は3100万人で、うち高血圧を認識していない患者は1400万人、認識していても未治療者が450万人、薬物治療しているのに管理不良は1250万人とされる。歳大の問題は高血圧が無症状であるため未治療患者が1850万人も存在すること。演者は家庭血圧測定の重要性を強調し、オムロン社の最新型の腕時計タイプwearable血圧計(日本未発売)を従来型の手首血圧計(日本で上梓済み)と比較し、京都府内の3病院で、各々40例、42例の≧50歳高血圧患者で2週間の測定にて、血圧測定回数、行動変容が見られるかを検討した。結果は前者の方が規定されていない血圧測定回数が増えて、それによる高血圧に対する認識が高まった模様で、血圧値としては両郡共2週間後平均5mmHg の収縮期血圧低下が認められ、両郡間に差はなかった。24時間血圧測定の意義も以前から強調されており、今後より新しい機器開発でAMBP測定に近いデータを集積できる可能性も示唆された。

会長企画シンポジウム5 薬物治療から心腎連関を考える~ARNIとSGLT2~

座長:東京慈恵会医科大学循環器内科 吉村道博、九州大学循環器内科 井手友美

PSY05-1 Cardiorenal Communication in Physiology and Heart Failure 千葉大学システム疾患医学 真鍋一郎

心不全HFは全身疾患であり、その進展には様々な併存疾患が大きく関与してくる。腎疾患もその1つである。HF患者の約半数は慢性腎疾患CKDを合併しており、それにより死亡率が増加する。HFとCKDは相互的に影響を与え、互いの病態を悪化させる。最近の研究は心腎連関を示す共通した経路Pathwayが複数示され、我々の研究でも、心-脳-腎のネットワークが血管内の圧負荷に対して重要な役割を果たすことが分かった。心負荷が掛かると腎臓がCSF2を産生して心内のマクロファージを刺激し、心保護的作用を示すのである。この点について少し詳しく触れたい。

PSY5-02 Various Biological Roles of Natriuremic Peptides and its Therapeutic Potential through Muti-Organ Network 東京慈恵会医科大学循環器内科 名越智古

心不全の病態は、RAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)が過剰に活性化されて、水とNaの蓄積が起こり(前負荷上昇)、血管内圧も亢進(後負荷上昇)、心臓は肥大・繊維化・リモデリングを来して心機能は低下する。本来は低下した心機能を補填する役割を持つ機序が、逆に悪化を招くのである。しかしこの不全心筋からは、ANP、BNPが分泌され、このRAASの亢進による様々な心負荷(悪影響)を抑制するように働く。このNa利尿ホルモンはネプリライシンと言う酵素で分解されるが、ARNIの一部であるサクビトリルはこの酵素を阻害してNa利尿ホルモンを維持するのである。他方でバルサルタンを含有するARNIはARBとしてアンギオテンシンの作用を阻害することで、心不全の悪循環を阻止する二重の効果を持っている。又、ネプリライシンは腎臓の近位尿細管管腔内のブラッシュボーダーに非常に多く認められることから、ARNIの効果発現には腎臓の存在は欠かせない。このことを反映した腎機能低下患者における大規模臨床試験が、ARNIの効果をARBと比較したPARAGON-HFである。心不全患者における入院と心血管死をエンドポイントとした結果、有意差は無かったが(P=0.06)ARBよりもARNIの方が少なかった。さらにサブ解析では、女性、EF<57%、eGFR<60%の群では有意にARNIの方が予後良好だった。ラットの実験データでも5/6腎切除によるCKDモデルで、ARBとARNIで障害程度が改善されるが、後者の方がより強い効果が認められ、これはNa利尿効果に依ると考えられる。この作用を糖尿病性腎障害のモデルで見るとARBとARNIの改善効果は同等だが、インスリン濃度、レプチン濃度がARNI群でより低下していた、つまりインスリン抵抗性を改善していたと結果だった。更に最近、Na利尿ペプチドA/BNPは、心臓、腎臓だけで無く、骨格筋、脂肪組織でも作用を示していることが分かってきた。脂肪組織には白色細胞と褐色細胞があり、後者がエネルギー代謝を促進し糖尿病も改善することが分かっているが、A/BNPは白色細胞でTG分解を促し、白色細胞を褐色に変える作用を持つことが示された。我々の研究でも糖代謝に対する影響として、13週間の高脂肪食を投与した肥満マウスで上昇したインスリン抵抗性は、A/BNP投与によって改善を示した。尚この時の心筋組織の所見で、肥満マウスの心筋の脂肪をトラッピングすることでA/BNPが心気自体のインスリン抵抗性を改善している所見が得られたことも大変興味深い。

PSY5-03 Roles of Renin-angiotensin-aldosterone System in Cardio-renal Association 東京女子医科大学高血圧・内分泌内科 森本 聡

心腎連関について討論。CKDもHFも共にレニン分泌が上昇し、循環するが亢進するが、それが交感神経系も刺激して血中ノルアドレナリンも上昇する。それが更にRAASを活性化してCKDにもHFにも悪影響がでるという悪循環となる。この交感神経系の調節機構として、中枢神経では延髄のRVLMの役割が交感神経中枢として重要。末梢からの動脈圧受容体や、心肺圧受容体からの求心刺激は、延髄の孤束核NTSを介して、行為中枢からの刺激は室傍核PVNを介してRVLMに伝達される。ここから脊髄を介して、心血管、腎臓への遠心性交感神経伝達が起こる。また、求心性腎神経系は脊髄を介してPVNに到達し、RVLMへの信号を送り、更に液性因子としてのアンギオテンシンII、Naは、例外的にBBBのない脳弓下器官SFO終末板OVLTに到達して信号を発し、それがPVNを介してRVLMに伝達される。また、レプチン刺激は弓状核ARCを介してPVNに伝達される。これらの延髄に有る中枢は、心血管調節領域として重要で、交感神経亢進時に、すべてのRAASコンポーネントが発現していることが分かっている。交感神経系以外の循環調節としては、PVNからの刺激で、バゾプレッシン分泌増加、SFOからの刺激で食塩嗜好上昇・飲水量増加、OVLT刺激で同じく飲水量増加を来す。
中枢神経における交感神経系の活性化は重要であり、近年その機序の解明が進んできた。


先ず脳内のプロレニン受容体PRRの役割は、レニン前駆体としてPRRと接合して初めてレニンとの接合部の蓋が開きレニン活性(アンギオテンシノーゲンをアンギオテンシンに変換)を示すと言う、RAASの調整機能を持っているのである。このPRR発現量は、心臓に続いて脳で最も多い。続いて1990年前後に研究された、ACE2に作用によって、アンギオテンシンIIのアミノ酸が1つとれたAng1-7がMas受容体と結合することにとって、Ang IIとは逆の作用を示すと言う事実も興味深く、このACE2-Ang(1-7)-Mas受容体系は、①腎臓だけでなく脳内において、も発現しておりneuron、gliaにも認められる報告がある。②Ang(1-7)は視床下部及び腸間膜動脈からのノルアドレナリンNAの再吸収を増加させ、血中NAの再吸収濃度を低下させる、つまり交感神経系を抑制する効果を持つ。③心不全モデルで脳内にAng(1-7)を注入すると圧受容体反射機能が改善し、腎臓のNAを低下させた。④Mas受容体ノックアウトマウスでは圧受容体反射の感受性が抑制された、などの報告がある。


最後にRAASにおいて、アルドステロンAldoは副腎で産生されていると考えられてきたが、近年の研究で、コレステロールからAldoにいたる合成酵素遺伝子は、脳内でも特に海馬や視床下部に多く存在することが分かっており、アルドステロン自体の濃度も視床下部で最も高い。また、Aldoのリガンドであるミネラルコルチコイド受容体MRも脳内に広く分布しており、特に視床下部が多いことも分かっている。脳内Aldoの役割としては、ラットの脳内でNa負荷をすると血圧が上昇し、その現象は脳内にMR拮抗薬の脳内投与により抑制され、視床下部で、ACE・AT1R発現、Aldo濃度が上昇した。更にラットの脳内にAldoを投与すると交感神経系が亢進し血圧が上昇するが、これはMR拮抗薬によって抑制された。このように脳内自体にRAASの産生から反応、代謝まで独自に作動する機序があると考えられる。


以上のことから、循環RAASと脳内RAASは相互に連動していると考えられる為重要であり、ACEI、ARB、MRA、ARNIの作用機序・部位を考えると、やはりNa利尿作用を有しているARNIが最も多部位での効果を発現し、心腎連関において過剰な交感神経系亢進の抑制に、より有効であると考えられる。

PSY5-04 Cardio-Renal Protection of Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors 東京女子医科大学附属足立医療センター 小川哲也

心不全患者に対するSGLT2阻害薬の有用性を見た臨床試験、EMPEROR-ReducedとDAPA-HFの解析結果で、全死亡率、心血管死、初回入院と心血管死、更に心不全による入院、腎臓の複合イベント、すべての心不全による入院と心血管死、のどの評価項目でも、SGLT2阻害薬群が有意に良好だった。これは腎機能の程度(eGFR<60、≧60)に関わらず、SGLT2阻害群が良好だった。続いて報告された腎機能に対する効果を見たDAPA-CKDでは、2型糖尿病患者でeGFR≧50の群、末期腎不全患者では、有意に改善を見たが、eGFR<15、透析患者では有意差がなかったと言う結果。一方糖尿病のない群では、透析患者を除いて、eGFR≧50の群でも予後が改善されていた。


作用機序としては、TGF(尿細管糸球体フィードバック機構)が糖尿病腎症では傷害されて、尿細管でのNa,ブドウ糖の再吸収が亢進し、緻密斑の感知により輸入細動脈が拡張しGFRが上昇し、過剰濾過が起きる。この状態では糸球体内圧が上昇するため結果的に糸球体が損傷を受ける。ここでSGLT2阻害薬を使うとNaとブドウ糖の再吸収が下がり緻密斑の反応が改善して、糸球体内圧が下がると言う機序である。この糸球体内圧の上昇は、自施設のこれまでの研究でCa拮抗薬CCBの種類による差からも理解できる、L型のCCB(アダラート、アムロジピンなど)はN型CCB(シルニジピン、エフォチジン)とは違って輸出細動脈の拡張作用がなく糸球体内圧が下がらないため、高血圧に対する降圧効果が同等であっても尿中アルブミン量を減らすことが出来ない。これはRAASへの影響、すなわちAngII、血症レニン活性PRA、Aldo濃度がL型CCBで上昇しており、この影響に依るものだと判明した。続いて、腎機能障害に影響する心機能の因子としては、心拍出量が重要と考えられてきたが、最近の研究から一番腎機能に影響するのは中心静脈圧CVPであることが分かってきた。CVPの高い症例では腎機能は悪化しやすい。更に心不全に良く用いられるループ利尿薬は、Na利尿によって低Na血症を起こしやすいが、これは予後不良な因子であり、SGLT2阻害薬はブドウ糖の排泄により利尿作用を持つが、血管内の体液量は減らさず、Na排泄には影響が少ないので、予後が改善すると考えられる。

 

教育セッションI-2 循環器医に求められる不整脈の知識 座長:日本医科大学循環器内科 清水 渉、東京医科歯科大学・難病疾患研究所 古川哲史

E-I-2-1 AI・DXなどの先端技術が変える不整脈基礎研究 東京医科歯科大学・難病疾患研究所・整体情報薬理学 古川哲史

近年のAI・DXの導入によって医療のturning pointが生まれるとされ、特に3つの分野で大きな影響が起こるといわれており、先ず放射線科の画像診断、皮膚科の皮膚所見診断、そして循環器領域である。循環器領域では物理的な指標が多く含まれるが、その中でも不整脈領域は心電図という物理的な指標があり適している。このturning pointの特徴としては、予防医療(先制医療)として貢献できること。この予防医療に貢献できるものとしては全ゲノム完全解析GWASがある。これは30億塩基対のゲノム情報でコードされているが、そのうちの1%、約3000万はバリエーション(遺伝子多型)が有る。人間における個体差の部分はその10分の1の300万、更に疾患に関しては30万で充分とされている。


先制医療において、必要な感度と特異度は、感度はある程度有れば良いが、得意度は高くなくてはならない。予防医療では理想的にはオッズ比は50が望ましく、感度は80%、特異度は95%である。しかし実際には遺伝子解析を繰り返してもオッズ比を50に近づけるのは難しく、その後遺伝子解析に加えて、血液検査のバイオマーカーと生活習慣を加えてAIによって解析していくと言う考えに変わってきた。これはPrecision Medicineと呼ばれ、2015年に米国オバマ大統領がPrecision Medicine Initiativeを表明した。演者らは心房細動に関してPrecision Medicineを試みていて、AMEDから予算を貰い、ゲノムは105の心房細動リスクのSNPsを解析、All Japan データから生活習慣によるリスク解析、4つのmicroRNAとfree DNAのバイオマーカー、PAF患者の正常時のEKGと言う4次元情報による心房細動発症予測を行っている。この結果は隠れ心房細動の患者の検出率が80%であった。このknow howを使ったPAF推定AI解析心電計をフクダ電子で試作(厚労省に認可申請中)した。この結果はオッズ比が50を超えるサンプル数の割合で約50%と言うことも分かっている。但し今回の研究では後ろ向きのデータ解析であり、これを実臨床に当てはめると実際のオッズ比は下がることになる。このAIを駆使した解析を補うものとしてDX(デジタルトランスフォーメーション)がある。

それを応用して、2022年医科歯科大学循環器内科主導で、静岡市清水区における社会実装試験SPAFS(Stroke Prevention by detection of AF in Shimizu)を開始した。1誘導心電計と脈波センサーの両方を用いてPAFを検出するのだが、心電計の方が特異度は高い。そこで現在、指輪型の脈波センサーを開発中である。今回83例の検査で6例のPAFが見つかり、検出率は7.2%だが、これは今日までの通説、40歳以上のaf罹患率1%と隠れaf1%の合計よりかなり多いことが分かった。この成果はAI・DXの活用により出せたものと考えている。

E-I-2-2 不整脈薬物治療の進歩 最新のガイドラインから 近畿大学病院心臓血管センター 栗田隆志

2021年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版 不整脈の非薬物療法について、解説する。先ず、従来のペースメーカーの宿命的欠点として、皮下に植え込む本体と心腔内に先端を置くリードの接続によって、①その経路の途中で物理化学的な影響を受け断線する、②皮下ポケットの易感染性、③局所感染がリードを経由し全身に波及しうる。が有った。この欠点を解消したのが、リードレスペースメーカーで、カプセル状の本体を右室内に植え込むだけで断線や感染の危険はない。高齢で肺炎、巨大肺嚢胞合併例などは、気胸のリスク、感染リスクもありこのタイプのペースメーカーで安全に植込みが出来る。2016年NEJMに掲載された臨床試験でも、従来の機種と比べて長期に術後の合併症が希である。上記海外試験にも参加した副島らの国内研究でも、刺激閾値、R波感知感度においても、海外と比べても全く問題がなかった。これらの結果から、2018年のガイドラインでは製品の記載だけだったが、2020年改訂版より頸静脈アクセス困難症例の有症候性心房細動例で推奨I、同様で心房細動以外(CAVBなど)で推奨IIa、デバイス感染例の再植込みで推奨IIbとなった。VVIモードしかないこの機種では、房室連動を必要としない、心房細動や一部のCAVBのみが適応である。しかしその後VDDモードのリードレスペースメーカーが開発された。この機種では本体に付いたaccelerometerが心房収縮を感知し、それに同期して心室を刺激する仕組みである。データでは心房心室の同期は90%前後で可能であるが、心拍数が上がる体動時には、同期率が落ちてしまうことが自験例でも分かっている。VVIRモードとして作動するのである。


続いて、刺激伝導系ペーシングリードについて。ヒス束刺激はかなり前から概念としてはあったが、リードの留置の問題から実現が難しかった。しかし3830という新しいリードが出来てから、中隔の基部などをペーシング出来るようになってきた。Zanonらの報告によれば、EF<50%の患者ではヒス束ペーシングによって、EFの改善を認めた。この報告は観察研究であったこともあり、ガイドラインでも徐脈性不整脈でEF36~50%の患者においてヒス束ペーシングはIIaの推奨とされた。更にCRT対象患者の代替療法として、①CRT後も心不全が進行するノンレスポンダー、②適切な冠静脈がない、③左室リードの閾値上昇、④不可避な横隔神経刺激、⑤繰り返す左室リード離脱、⑥技術的限界、⑦何らかの合併症で両室ペーシング不能、に限りヒス束ペーシングの適応となり得るIIb推奨としている。


更に左脚ペーシングと言う概念は2020年の時期には未だエビデンスもなく、ガイド来院状は推奨はなかったが、2022年のMELOS研究において2500例前後の試験では、徐脈例で92%、心不全例で82%が成功し、合併症も多少有ったが有効性が期待された。今後検討の余地があり得る。
心臓ペーシングの効果を最大限にするには、徐脈の場合右室ペーシングでの有効性が高いが心室のペーシングのマイナスが多少有る。心不全でのペーシングは右室の場合マイナスが大きいのでCRTのような同期両室か刺激伝導系ペーシングが必要となる。


他にICD植込み後患者が、心機能的に或いは担癌状態となり末期状態になった場合に、患者の同意を得た上で除細動機能を停止するという指針も示されている。
更に、カテーテルアブレーションについて、心機能の低下した心房細動患者ではアブレーションによって生命予後が改善するという、CASTLE-AF研究の結果が重視されるが、2020年のガイドラインで、低心機能(HFrEF)を有する心房細動患者の一部で、死亡率、入院率を低下させる目的でアブレーションの適応とする、と明記された。Afの薬物療法とアブレーション治療の比較試験では、明確な有意差は出なかったため、推奨レベルに変更はない。左心耳閉鎖についても抗凝固療法が困難な症例では、脳梗塞の予防効果も示されており、選択肢の一つである。

以上、別紙簡易報告にも記載したが、糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬が、心不全の病態や腎不全の病態にも、改善効果を示すという最近の研究は、大変に興味深い。
更に、最近話題のARNI(ARB+A/BNP)の相乗効果もかなり解明されてきていて、自分でも実臨床で使い始めている。
不整脈の分野も、リードレスペースメーカーにVDD機能+のタイプが開発され、少しずつながら着実に進化しているのも今後更に期待出来ると感じた。

3/23-25 第53回日本心臓血管外科学会学術総会 旭川市民文化会館/旭川医科大学外科学講座 血管・呼吸・ 腫瘍病態外科学分野 東 信良 会長

ワークショップ1  ECPELLA vs 体外式BiVAD vs central ECMO

座長:千葉大学医学部心臓血管外科 松宮護郎、九州大学医学部循環器外科 塩瀬 明

WS1-1 急性重症心不全に対するcentral ECMO with LV vent 信州大学医学部附属病院心臓血管外科 小松正樹

肺水腫、臓器不全の進行する急性重症心不全ASHFは予後不良。数年前からこの病態にcentral ECMO with LV ventを導入。2016/10-2022/9②個の主義を用いた23例を検討。年齢49.3±21.9(11-78)歳、13例が男性。原疾患は劇症型心筋症11例(47.8%)、開心術後5例(17.4%)、DCM3例(13.0%)、虚血性心筋症3例(13.0%)、修正大血管転位1例(8.7%)。既に循環補助として、IABP16例(69.6%)、peripheral ECMO17例(73.9%)、IMPELLA2例(8.7%)が装着されていた。人工呼吸管理は14例であった。導入時全身状態は全例肺うっ血所見+、腎機能障害11例、肝機能障害17例。手術は胸骨正中切開下に上行大動脈送血、右房脱血、心尖部ベント挿入で、手術時間390±194分、出血は3755±4219ml。ICU滞在期間は41.6±439.7日、入院期間は69.2±62.3日。術後合併症として11例に出血再開胸が有った。導入後の経過は14例で離脱可能で、離脱までの補助機関は37.9±34.2日、4例で植込み型VADに移行。死亡例は離脱出来た1例を含む10例(43.5%)で開心術後の5症例を多臓器不全で、劇症型心筋症の5例を出血、多臓器不全、脳卒中で失った。
結語:ASHFにおいて、IABP、PCPS管理下でもMOFを示す症例ではより強力な機械的補助が必要で、central ECMO with LV ventは全例救命とまでは行かないものの、左室ベントによる負荷軽減、心筋酸素消費量低下による効果が期待出来ると考える。

WS1-2 両心室心原性ショック日する究極の体外式循環補助:Central-Y-Y-ECMOの有用性 国立循環器病研究センター 藤内康平

両室心原性ショックでは、ECPELLA、Central ECMO+左室ベント、BiVADが選択肢となるが、前2者では高度な肺水腫と右心不全のためImpellaや左室ベントのサクション、それに伴う血栓形成が懸念され、後者では肺毛細血管関門破綻による肺水腫の憎悪があり得るため、最適なシステム構築は難しい。これらの問題解決のため自施設で開発したCentral-Y-Y-ECMOについて報告。2022/4以降、劇症型心筋症による両室心原性ショック6例に対してCentral-Y-Y-ECMOを装着。BiVAD同様のカニュレーションを用いて、送血管、脱血管をそれぞれY字管で接続、肺動脈送血回路をクランプで制御することで、収縮期肺動脈圧が25mmHg を超えないように管理。肺うっ血と心機能改善にあわせて、従来のBiVADへの移行、体外式LVAD或いはRVADへの移行、植込み型LVADへの移行、離脱を実施。Central-Y-Y-ECMO導入直後、システム総流量7.9±0.9L/min、大動脈送血における心係数2.2±0.5L/m2、肺動脈圧20±4/12±2mmHg、中心静脈圧12±4mmHg。導入後12時間尿量は22±26ml/kgで確保出来ていた。6例中2例で5日後に右心補助不要となり体外式LVADに移行、その後1,7日後に離脱出来た。1例はCentral-Y-Y-ECMOのまま管理を継続、7日後にシステム離脱した。他3例では肺うっ血解除に伴って2-4日後通常のBiVADに移行、うち2例は約2ヶ月後に植込み型LVADに移行、1例は8日後に離脱。追跡期間は121±43日で、合計4例が補助循環離脱、2例が植込み型LVAD装着下に生存。両室性重症心不全でBiVAD出も不十分な場合Central-Y-Y-ECMOは有用であった。

WS1-3 ECPELLAと体外式Oxy-BiVADによる重症急性両室心不全治療戦略 藤田医科大学医学部心臓血管外科 高味良行

2018/8のImpella 導入後、自施設ではIABP/PCPSで管理困難な重症急性両室不全にはECPELLAを用いて、呼吸補助、右心補助、臓器還流維持、左室負荷軽減を実施。補助7日目を目処に人工肺を加えた体外式Oxy-BiVADにレベルアップしている。
2018/8以降のImpella使用例73名のうち、ECPELLAは24例(33%)に使用、47例(64%)が生存離脱した。体外式Oxy-BiVADは6例(劇症型心筋炎3:COVID-19の1 ・リンパ球性1・産褥性1、巨細胞性1、薬剤性心筋炎1、開心術後両心不全1)に実施。全員女性で年齢中央値47歳、補助機関中央値20日、5例は生存離脱し、1例は海外にて心臓で移植となった。
考案・結語:体外式Oxy-BiVADの利点として、①充分な両心減圧補助、②血管抵抗と循環血液量の単純管理、③人工呼吸器の離脱可能、④浅鎮静・体動可能によるリハビリの早期開始、⑤経管栄養で心保護薬内服可能などがある。積極的利尿・除水とリハビリで呼吸状態の回復が早く、人工肺の早期除去、左右両心機能の評価も出来随時離脱出来ることで、感染防止も可能である。今後はより低位侵襲な手技の導入が望まれる。

WS1-4  Impella時代における急性循環不全に対するMCS使用戦略変遷を振り返って

名古屋大学医学部心臓血管外科 吉住 朋

急性循環不全に対するMCS(Mechanical Circulation Support)には歴史的変遷あり、LVAD、BiVAD、LVAD+ECMOなど使い分けてきたが、2018以降は、Impellaを用いて胸骨正中切開を避け、低侵襲治療に努めている。2011/11-2022/8の期間、急性循環不全でMCSを用いた70例を対象とし、Impella導入前群(A群)20例と導入後群(B 群)50例を比較検討。INTERMACS Profile 1はA群12例、B群49例。病因はDCMがA群7例、B群14例、ICMはA群4例、B群6例、劇症型心筋炎はA群5例、B群26例。MCS装着期間は、A群218±189日、B群17±22日(p<0.001)。MCS離脱例はA群13例(65%)、B群38例(76%):p=0.35、病因死亡はA群11例(55%)B群17例(36%):p=0.28。BTR可能例はA群13例(65%)B群38例(76%) :p=0.35。MCSから植込み型VAD移行例はA群10例(50%)、B群11例(22%)であり、その移行期間はA群186±27日、B群45±28日(p=0.035)と有意に短縮、VAD装着時の手術時間もA群718±120分、B群377±109分p<0.001)と有意に短縮していた。遠隔成績は植込み型VAD装着後複合事象回避率(重症感染、ポンプ交換含むポンプトラブル、不可逆性中枢神経障害)の検討では両群比較で30日A群60%、B群64%、90日A群30%、B群64%、1年A群10%、B群64%(p=0.018)と有意にB群が優れていた。
結語:急性期の離脱率や死亡率には差がなかったが、BTR移行期間の著明な短縮と、手術時間の短縮を認め、今後もImpellaを活用する方針である。

WS1-5 周術期心原性ショックに対する補助循環治療 -適切なデバイス選択が予後を改善する- 大阪警察病院心臓血管外科 堂前圭太郎

国内でのImpella導入により、様々なMCSの選択肢が増えた。しかし、周術期特に心原性ショックを呈した心臓血管手術症例の予後は決して良いとは言えない。自施設で2018/10のImpella導入後は、術前心原性ショックに対してImpellaによる早期左室unloadingを基本としたMCS治療戦略をとっており、本戦略の臨床成績と妥当性を検討した。2012/10-2022/6にMCSを要する心原性ショックを呈し心臓手術を要した32例を対象に、Impella単独群(I群13例、71.8歳)、Impella+ECMO(ECPELLA) 群(EP群8例)、ECMO単独群(E群、11例)にわけ臨床成績を比較検討。Impella導入ごはImpellaを基本として、状態に応じてECMOの併用を実施。EP群での導入理由はVF/CPA6例、低酸素2例、右心不全合併1例。術前STS score、LVEFでは有意差なし。E群では7例でIABP補助を併用し平均血圧上昇とLac値の改善が得られ、 3時間の補助後、全例緊急で心臓手術を施行。I群、EP群ではImpellaCP/2.5を14例、5.0/5.5を7例で使用し、CPOの有意な改善とLac値の改善が見られた。48時間の補助で、19例が状態安定化し開心術を実施出来た.術後のLVEFはE群34.1±17.3%、EP群44.6±14.8%、I群45.1±14.6%であり、EP群、I群でのみ有意改善を認めた。術後MCS離脱率はE群7例(63.7%)、EP群6例(75%)、I群11例(84.6%)で可能で、在院死亡はE群8例(72.7%、肺炎3例、多臓器不全2例)、EP群2例(25%、脳梗塞2例)、I群4例(30.1%、肺炎3例)だった。
結語:Impellaを基本とした術前治療戦略はECMO単独群と比較して、術前状態改善、術後の心機能回復、良好なMCS離脱率、生存率を示した。更にEP群でI群以上の成績を示したことより患者状態に応じて適切なデバイス選択が予後を改善すると考えている。

ワークショップ3  TAVI in SAVRを見据えたAVR~適応及び弁輪拡大の是非~

座長:大分大学心臓血管外科 宮本伸二、順天堂大学心臓血管外科 田端 実

WS3-1 人生100年におけるAS治療戦略~いつ何をどう選択すべきなのか?~ 札幌心血管クリニック 八戸大輔

SAVRに加えてより低侵襲なTAVIが導入されて以来、どちらかという議論のみならず、低リスク患者に対するTAVI、TAVI in SAVR、更にTAVI in TAVIと適応が拡大され、患者の長期的展望に立ってValve選択をする必要が出てきた。自分はTAVIを実施する内科として外科への要望も含めて検討する。

WS3-2 TAVI時代のSVAR -弁輪拡大の必要性- 慶應義塾大学医学部外科(心血管)山崎真敬

近年のTAVI in TAVIを含めたASに対する治療戦略を考慮することの必要性に加え、弁輪拡大術を含めた至適サイズの人工弁を縫着する重要性から、我々は2015年より右腋窩小切開下のMICS AVRと共に単結節縫合での有効弁口面積を獲得出来、必要に応じてMICS視野下でも弁輪拡大術が可能と言うことを提言してきた。PPMを回避するための弁輪拡大も今やTAVI in SVAR以降の狭小弁輪に対する手技として、更にSTJやValsalva狹小例での冠動脈入口部の閉塞リスク軽減のために必須となりつつある。術前CTによる弁輪形状の把握も方針決定に重要であることは言うまでもない。

WS3-3 SVAR弁とTAVI弁の種類による諸問題 東京女子医科大学心臓血管外科 道本 智

2021年のTAVIの低リスク患者への適応拡大以降、より生存期間の長い長期予後を考慮に入れる必要性が出てきた。このライフタイムマネージメントの観点からは、比較的若年者に生体弁によるSAVRを施行する際、TAVI in SAVRは重要なオプションとなる。再AVRの選択肢もあるが、自験例のTAVI in SAVR21例(平均83.3歳)のSTS scoreは平均12.5とかなり高リスクだった。TAVI in SAVR小例の初回SAVR弁とTAVI弁の種類・サイズは重要で、初回弁は耐久性に優れ、透視時の視認性が良い必要がある。自験の内巻弁13例の平均耐久年数は10.3、外巻き弁6例は6.3年と比較して有意に長かった。一方でステントレス弁2例では耐久年数が15年と長いが、視認性が悪い為、初回SAVR弁としてはCEP弁が最も優れると考える。TAVI弁では色々制約があり、外巻き弁は自己拡張型Evolut弁しか適応がなく、透析患者では現状バルーン拡張型SAPIEN弁しか適応がない。後者はintra-annular弁で術後の圧較差の残存、PPMが懸念されるされるため、20mm使用時はBSA≦1.6m2が望ましいとされる。自施設は基本EOAを重視して、supr-annularであるEvolut弁を用いており、透析症例、視認性不良例、循環動態不良の緊急症例ではSAPIEN弁を用いている。中央値20ヶ月間のフォローでPVDは認めず2年生存は84%。TAVI in SAVRの予後の報告は現状2,3年のものしかなく、多施設の長期成績が待たれる。

WS3-4 狭小生体弁の人工弁機能不全に対するTAVR in SAVRから初回SVARを再考する

国立循環器病研究センター 川本尚紀

狭小弁輪症例での生体弁置換術後の弁機能不全に対してTAVI in SAVRを行う際、注意点は冠動脈合併症と血行動態となる。自験例19mmと21mm生体弁に対するTAVI in SAVR後の臨床成績を比較検討する。2016年以降上記症例は各々12例と11例で、平均年齢各々80.5±8.2歳、81±4.9歳(有意差なし)。初回AVR時年齢は、70.2歳と69.6歳、BSAは1.37±0.1㎡、1.5±0.2㎡(有意差なし)。術中冠動脈閉塞は21mm群で1例のみ、病因死亡は0、1年生存率は各々66%、100%(p=0.054)。術後圧較差mRG≧20mmHgの例は各々6例(50%)、2例(18%)、severe PPMは3例(25%)、2例(18%)(いずれも有意差なし)。1年後の心エコー検査でmPG≧20mmHgとなったのは、各々7/9例(77.7%)、1/9例(11.1%)p=0.015、sPPMは5/9例(55.5%)、3/9例(33.3%)p=0.63と前者で中等度以上の人工弁機能不全を呈す症例が有意に多かった。70歳前後で初回SAVRni19mm生体弁を使うと続いて行うTAVI in SAVR後の人工弁機能不全を早期に起こすことが問題となる。

WS3-5 至適人工弁置換を考える 大阪大学医学部心臓血管外科 前田孝一

ASに対するTAVI治療の普及によりLife-time managementが重要となった。その中には当然TAVI in SAVRへの配慮も含まれ、今回解剖学的因子から、至適SAVRを検討した。
TAVI in SAVRの際の問題は冠動脈閉塞とPPMであり、134例のSAVR術前後のCTの検討を元に考察。134例の内訳として、*内巻弁(IS96例)、外巻弁(ES5例)、sutureless弁(SL33例)で比較。冠動脈高**(短縮率:IS27.8±15.9%(RCA)/26.0±15.5%(LCA) 、ES23.7±11.4%(RCA)/27.4±13.5%(LCA)、SL4.7±12.2%(RCA)/12.6±13.1%(LCA))とValsalva洞径(短縮率:無冠尖7.7±5.7%(IS) vs 3.6±5.3%(SL) 、右冠尖5.5±9.0%(IS) vs 3.8±4.1%(SL)、p<0.01)が短縮する傾向で、その結果TAVI in SAVR時に冠動脈閉塞がハイリスクとされた患者12.7%のうち、sutureless valveで有意に低率だった。(12.5%:60.0%:6.1%)PPMについては初回SAVR時にPPM発生の術前基部解剖学的リスク評価(85例)では、small STJ(p-0.011)及び生体弁true ID<18mm(p=0.010)がリスクファクターと判明した。このように冠動脈閉塞を重視すると大きな生体弁が選択しにくいが、PPMに関しては大きな生体弁が望ましいというジレンマの中、現時点では術前CT監査による評価を基本として、患者の予後、生体弁の耐久性を考慮に入れ、基部拡大術なども検討しながら方針を決めていくべきと考えた。

WS3-6 ASに対するAVR後の大動脈基部の変化とTAVI in SAVR時の冠動脈閉塞リスクについての検討 大阪大学大学院医学系研究科 川村 愛

AS治療においてLife-time managementが重要であり、SAVRの際、術前にTAVI in SAVRの可否を見越す必要がある。そこでTAVI in SAVR時の冠動脈閉塞リスクを規定する解剖学的因子を検討。2012-2021のSAVR症例で術前後にCT検査を実施した142例中、STJ拡大術を倂施した8例を除く134例(どう見ても直前の演者と同じ対象*!:平均年齢74±7歳、男性53%)を解析。冠動脈高短縮率**は、前演者の報告通り。STJ径の術前後短縮率は3群間で有意差なし。バルサルバ洞SOV径の短縮率は無冠尖と右冠尖でSL群に比べてIS群で有意に高値であった(P<0.01)。IS、ES、SLそれぞれのハイリスク率は12.5%(12例)、60.0%(3例)、6.1%(2例)で、ISのハイリスクを規定した因子は術前STJ径(<25mm)とLCA高(<16mm)だった。
結語:将来的なTAVI in SAVRがハイリスクである患者は全体で12.7%であり、SL群で低かった。ISでは術後冠動脈高、SOV径が短縮し、特にSTJ径とLCA高が低い症例でハイリスクとなる可能性が示唆された。このことを考慮に入れた術式、弁選択が必要である。

パネルディスカッション4  TAVER遠隔期のミッション -5年以上の遠隔成績と合併症の治療 座長:慶應義塾大学 志水秀行、東北大学心臓血管外科 齋木佳克

PD4-1 慢性期B型大動脈解離に対するTEVARの早期及び遠隔成績 近畿大学 小谷真介

慢性B型解離に対するステント治療の妥当性は明らかではない。当科での治療成績を検討した。2009/5-2022/8に実施したTEVAR治療383例中発症3ヶ月以上経過したB型解離46例を解析。平均年齢70歳、男性34例、発症から治療までの期間中央値は56.8ヶ月、観察期間の中央値は24.0ヶ月。IIIa型24例IIIb型22例、倂施手術は上行ないし弓部置換が12例。平均動脈瘤径55.3mm、緊急手術が4例。中枢側ランディングは、Zone0が1例、Zone1は0例、Zone2は19例、Zone3が17例、Zone4が9例。使用デバイスは、Zenith16例、TAG11例、Valiant12例、Relay3例、Najuta2例、自作品2例。在院死亡5例(10.9%)、脳梗塞2例(4.3%)、対麻痺0例、透析2例(4.3%)、呼吸器合併症3例(6.5%)。16例で再手術を必要とした(RTAD3例、type1a3例、type1b5例、type3 1例type4 1例、末梢瘤拡大3例)。再治療回避率は1年80.3%、3年70.0%、5年60.6%で、再治療までの期間は中央値で9.9ヶ月。治療内容は、RTADの3例(期間51ヶ月)は開胸手術、他は血管内治療で対応。瘤径拡大は4例、維持ないし縮小は42例という結果。
結語:慢性B型解離に対するステント治療は、死亡率、再介入率共に高かった。再介入は殆どは血管内治療で対処できたが、RTADは遠隔期に発生する傾向があり術周期管理は注意が必要。遠隔成績も良好とは言えずこの疾患群に対するステント治療は慎重であるべきだ。

PD4-2  弓部大動脈瘤に対するTEVAR後の遠隔成績の検討 国立循環器病研究センター  陽川孝樹

2008/7-2022/6に弓部大動脈瘤に対してTEVARを実施した196例(年齢78.4±77.9歳、男性145例)の自験例の遠隔成績の検討
緊急手術7例(3.5%)、使用デバイスは、TAG52例、cTAG32例、Valiant73例、Relay22例、Zenith10例、Najuta5例、中枢側ランディングは、zone0:44例(年齢81±6歳、上行大動脈弓部分枝バイパス術21例、Chimny法16例、Najuta 5例、上行大動脈置換術2例)、zone1:104例(年齢79±7歳)、zone2:48例(74±9歳)。院内死亡は7例(3.5%、zone1:2例、zone2:1例)で死因は肺炎3例、塞栓2例、縦隔炎1例、肝不全1例。術後肺炎、脳梗塞はzone0(肺炎:16%、梗塞11%)でzone1、2(肺炎:1%、4%、脳梗塞:5%、2%)より多かった(P<0.001)。遠隔死亡は46例あり、大動脈関連死亡は7例(胸部大動脈破裂:4例、ステントグラフト感染:1例、大動脈食道瘻:2例)。3、5年生存率は74±3.9%、60±4.9%(zone0:63±8.9%、24±10%、zone1:75±5.4%、73±5.7%、zone2:80±6.4%、66±9.3%)。遠隔期再治療は17例に19回実施し、原因はステントグラフト感染(n=2)、エンドリーク(N=15)、RTAD(n=2)で、開胸手術8例、血管内治療11例実施。遠隔期再治療回避率は3年で88±2.9%、5年で83±4.3%、再治療を要した17例の5年生存率は60±13%、回避例179例は60±5.3%で有意差なし(p=0.741)。
結語:弓部大動脈瘤に対してTEVAR治療の成績では、再治療を適切に行うことで、回避例と同様の予後が得られ、継続した注意深い経過観察が必要と感じた。

PD4-3 胸部大動脈瘤に対する胸部ステントグラフト内挿術TEVARの長期成績 帝京大学医学部付属病院 今水流智浩

TEVARが2009年に胸部大動脈瘤の治療で保険償還されて以来、短中期成績の報告は多い。しかし長期成績の報告はまだ少なく、開胸手術との成績比較で劣勢のものも散見される。自験例につき検討したので報告する。2011/4-2017/12の当院施行TEVAR298例のうち大動脈解離と外傷性を除く202例を対象に、全例zone2以降~腹腔動脈近位に位置するもの。平均年齢76.1±10.4歳、紡錘状151例(74.8%)、嚢状42例(20.8%)、両方合併9例(4.5%)。全例動脈硬化性であり、結合織障害はなし。施行時の平均大動脈径5.9±1.8cm。30日及び院内死亡率、脳血管障害、永久透析、完全対麻痺+不全麻痺は3.2%、2.1%、0.5%、0.9%。大動脈疾患としての生存率は96.5%であった。I型8例、II型2例、III型1例のエンドリークの為に11例(5.4%)で血管内再介入が必要となった。
結語:解離と外傷を除く胸部大動脈瘤ではTEVARの長期生存率は優れており、エンドリークによる再介入は比較的低率だった。満足できる成績と考えている。

PD4-4 弓部デブランチングTEVARの遠隔成績 傾向スコアマッチングによる検討 大阪大学心臓血管外科 四條崇之

ステントグラフトの胸部大動脈瘤への保険収載依頼、TEVARは広く普及した。自施設では上行大動脈を含まない症例で、デブランチングTEVARを弓部瘤の第1選択としている。
2008-2021の間に実施したTEVAR533例のちうち、開窓型・分枝型・チムニー法を除く、上行大動脈を温存したデブランチングTEVAR215例を対象。Z0(59例)とZ1,2(156例)の2群に分けて、併存疾患につき傾向スコアマッチングを行い、治療成績を比較検討。マッチング後に両群52例ずつで、年齢中央値はZ0:76歳、Z1,2 :75歳、男性はそれぞれ45例、43例、その他の併存疾患に有意差なし。在院死亡は各群2例ずつで差なし。急性期のtype IaエンドリークはZ0:1例、Z1,2:5例(p=0.55)。主要合併症は、脳梗塞Z0: 0例、Z1,2 :1例、脊髄障害Z0: 2例、Z1,2: 1例、気管切開Z0:2例、Z1,2: 1例。大動脈関連死亡回避率は、Z0: 1年95%、5年88%、10年88%、Z1,2: 1年96%、5年96%、10年88%(p=0.79)、大動脈イベント回避率は、Z0: 1年98%、5年75%、10年75%、Z1,2: 1年92%、5年85%、10年73%(p=0.96)と両群間に差はなし。単変量解析による大動脈イベントの有意な要因は退院時CTでのエンドリークHR6.16のみで、その他中枢側デバイス径、術前最大瘤径、Z0ランディングのいずれも有意ではなかった。
結語:自験例の解析では中枢側ランディングの位置ではなく術後のエンドリークの有無が術後のイベントに寄与する可能性が高くエンドリークを起こさぬプランが重要と考える。

PD4-5 当院におけるTEVAR治療成績の検討 神戸大学心臓血管外科 山中勝弘

自施設でのTEVAR適応は下行大動脈真性瘤、低肺機能などのハイリスクで直達手術が困難な弓部大動脈真性瘤、合併症+のB型解離、外傷性大動脈損傷である。2008/7-2021/12のTEVAR305例の内訳は、真性瘤260例、解離31例、外傷性14例であり、平均年齢75.5±11.1歳(真性瘤77.7±0.6歳、解離69.4±1.4歳、外傷性59.7±2.7歳)、男性217人(真性瘤188人、解離21人、外傷14例)。全体の病院死亡8例(2.6%)で、真性瘤6例(2.3%)で死因は2例(Zone3)をMOFで失い、1例脳梗塞(Zone0)、3例(zone0,1,3)腸管壊死で失った。解離は1人(3.2%)腸管壊死で死亡。外傷性は1人(7.1%)MOFにて死亡。術後脳梗塞は9例(2.9%)で全例真性瘤(9/260:3.4%、Zone1:2、Zone2:3、Zone3:3、Zone4:1)。前提の5年生存率58.5±3.5%(真性瘤54.9±3.9%、解離75.3±9.9%、外傷性85.7±9.3%)と真性瘤が有意(p=0.04)に不良。大動脈関連死回避率は全体で92.6±1.9%(真性瘤92.8±2.1%、解離89.5±5.7%、外傷性92.8±6.8%)と群間に差はなかった。再治療5年回避率にも群間に差はなかった。再治療は解離群で4例(12.9%)認め、胸腹部置換術1例、弓部置換術2例、大動脈食道瘻で下行置換術1例を実施。真性瘤では再治療18例(6.9%)で、11例が血管内治療(再TEVAR10、血栓除去1)、7例に直達手術(逆行解離で弓部部分置換1例、Iaエンドリークで弓部全置換2例、グラフト感染で3例下行置換、2例で弓部下行置換)を実施。再手術までの期間は平均1.2±1.6年で再手術後の関連死回避率は5年で81.6±12.2%、グラフト感染の2例をMOFで失った。
結語:自験例でのTEVAR成績は比較的満足のいくものながら、真性瘤、解離例で再手術例が少なくなく、慎重なフォローが重要である。

PD4-6当院における胸部ステントグラフト内挿術の長期成績 東京女子医科大学心臓血管外科 村上弘典

 1990年頃より自家製ステントグラフト内挿術の報告が散見され始め、2008年に企業製品が認可されて以来、普及し続けている。2007/9-2022/9の自施設でのTEVAR380例(男性287例75.5%)を対象とし、平均年齢75.5±13.4歳、真性瘤T群と解離性動脈瘤D群に分類し検討。TEVAR手技はIFUを遵守し、健常大動脈部位に留置して全例thin sliceの造影CT検査でサイジング実施、術後早期に造影CTを施行し、以後定期的に遠隔期CT検査にて追跡。使用デバイスは、Zenith、Relay、Variant、Najuta、TALENT、CTAG。平均追跡期間は6.03±7.94年、全死亡として生存率は92.5%/1年、76.0%/3年、66.5%/5年、52.3%/8年。T群、D群ではそれぞれ、92.4/82.2%/1年、78.1/67.7%/3年、66.7/56.9%/5年、55.6/45.6%/8年と解離群で有意に低値だった。各々遠隔期では、悪性腫瘍、心不全、脳卒中による死亡が散見された。大動脈イベント発生では、グラフト感染、破裂例を認め追加治療施行するも予後不良であった。
結語:自験の15年に及ぶTEVAR治療長期成績は有効であるが、大動脈イベントの追加治療とその予防に、より慎重なフォローが必要である。

PD4-7 急性B型大動脈解離に対するextended TEVARの遠隔成績 秋田大学大学院医学研究科心臓血管外科 角浜孝行

急性B型解離例にTEVARを実施する際、エントリー閉鎖のみかextended TEVARとするかは議論が多い。我々は後者を選択してきたので報告する。2015年以降eTEVARを64例に実施した。平均年齢64±12歳、男性52例、実施時期は超急性期23例、急性期12例、亜急性期29例、発症から手術までの中央値は8日、病型はIIIa16例、IIIb41例、IIIbR2例、A型解離後5例。術式はステントグラフト2本を用いて末梢は腹腔動脈直上、中枢側は可能な限り健常部位に留置(Zone2:37/64例)した。偽腔開存例には30例にdistal bare-stentを留置。在院死亡は2例(3.1%)、主要合併症は、脳梗塞4例(6.3%)、脊髄障害5例(7.8%:一過性4、膀胱直腸障害1)、RTAD3例(4.7%)、dSINE5例(7.8%)を認めた。遠隔死亡は5例(7.8%:大動脈関連死は1例のみ)で、累積生存率は1年95.3%、5年86.8%だが、病気別では超急性期が5年74.2%と他より低い傾向(p=0.075)だった。再治療は11例(在院中4,遠隔期7例)で、内訳はRTAD3、dSINE3、エンドリーク4、感染1であった。RTADにはFETを用いた弓部置換を実施した。胸腹部置換を実施したのは感染例1例のみで、他は血管内治療。再治療回避率は、1年89.1%、5年83.7%で、病気別では超急性期が5年67.3%と不良(p=0.04)。
考察:急性B型解離では術後遠隔期残存解離に対する開胸術の頻度は低く、本法による下行大動脈のtearをすべて閉鎖することの有効性が示された。Iaエンドリーク(HR=11.7、P-0.004)、脳梗塞(HR=6.2、P-0.03)は死亡の危険因子となることから合併症の軽減が成績向上につながると考える。
結語:eTEVARは遠隔期の遺残解離に対する開胸手術を回避する効果があると思われるが、超急性期群では成績が今一つで、可能であればこの時期の治療は避けるべき。

以上、
私の本来の専門医分野である心臓血管外科も、既に世代交代した時期で、多岐にわたる分野の直近の治験は、やはり興味深い。
心不全に対する補助循環もIMPELLAの出現で、簡便であり更に進んだ技術となってきた。
私も、定期的に済生会横浜市東部病院で手術手伝いをしているTAVIもその適応拡大による問題点と、留意点の議論も非常に為になった。
さらに以前は、よりハイリスクな高齢患者への開胸手術を減らすことが出来る胸部大動脈瘤へのステントグラフト治療TEVARも更に進化しており、施設ごとの様々な工夫が、大変に参考になった。

学会開催も、現地参加者も徐々に増えてきてているようだが、Web開催では同時開催の講演でも分けて聞くことも出来るし、日常が多忙でも後日に聞いたり出来るので、その点は有りがたいと思う。今後現地とWebのハイブリッド開催が恐らく継続されると思われる。

研修・講習会参加

6/3 認定産業医研修会 神奈川産業保険支援センター:「熱中症の対策における産業医の役割」講師/村上 稔医師 過去3年の労災事故の件数で、総数は減少しているものの、熱中症はむしろ増加傾向にあり、業種別には建設業での発生割合と、死亡率が高いことが分かっている。特にコロナウィルス感染による就業中のマスク着用も影響しており、より注意がれ必要となる。

6/18 認定産業医研修会 神奈川産業保険支援センター:「治療と職業生活における両立支援

講師/千葉宏一医師 人口の高齢化に伴い高齢者雇用安定法などの施行により、70歳までの就業確保という新しいトレンドの中、疾病に罹患しながら就業するケースも増えており、平成28年2月に公表された「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」についてのわかりやすい解説がなされた。所属するAOI国際病院でもこの課題に対する今後の方針を検討し始めたところである。

7/5 認定産業医研修会 神奈川産業保険支援センター

7/19 認定産業医研修会 神奈川産業保険支援センター:「最近の労働衛生行政の動向について」前年度の労働災害発生は、死亡者数は減少しているものの、休業4日以上の死傷者数は増加している。前述のように雇用年齢の上昇、直近のコロナ禍の影響で、熱中症の課題も増加傾向にあり、同様の注意喚起が述べられた。反面、事務業務ではテレワークへの転換が進んでおり、平成30年に制定されたテレワークガイドラインも、その後の実態調査の結果に基づき、令和3年3月に改訂された。テレワーク時間のPCによる管理などが含まれており、時間外勤務超過も管理すべきであるとされている。

この後の研修・講習会は、COVID-19問題のため、地域医師会主催のもの以外すべて延期となった。

勉強会主催:今年度の勉強会は、コロナ感染症の蔓延のため4人以上の集会を避けるべきとの当局の勧告もあり、また会場の確保も難しく、誠に残念ながら1度も開催できなかった。

産業医活動

医療法人社団 葵会AOI国際病院(職員全体)と附属老健施設「葵の園川崎南部」の産業医

前者は毎月第3火曜日午後安全衛生委員会、後者は毎月第2木曜日午後安全衛生委員会

健診センター契約先 

東京油槽(株):3ヶ月おき訪問

旭屋ミートセンター:3ヶ月おき訪問

ペプチドリーム:6ヶ月おき訪問

丸全昭和運輸(株):時間外超過職員の面談多数

山九十機工(株):時間外超過職員の面談多数

個人契約の産業医先

ファーマインターナショナル:毎月第2水曜日午後訪問

(株)丸紅フットウエア:毎月第2水曜日午後訪問

アントワークス社:2ヶ月おきのWeb会議(2/2、3/23)

アマゾン/ジャパン仙台支社:2ヶ月おきのWeb会議(3/17)

医療顧問として

産業医先でもあるファーマインターナショナルは医科向け広告代理店であり、様々な医療分野で医学的な質問、専門医の意見聴取を求められ、可能な限り対応。KOLの面談希望の場合は紹介もしている。

個別医療相談

友人、知人からの医療・健康相談にも従来通り可能な限り応じており、専門医受診希望では、紹介も行っている。

その他

 何と言っても今年度の最大の問題は、前述のようにCOVID-19のパンデミックな蔓延である。事は中国の武漢で12月前半に始まったようだが、中国はその公表を可能な限り遅らせた感がある。国内では耳鼻科医がネットで警告を発したが、ほとんど無視された上に、本人がこの病気で後日他界しているのも、悲劇の始まりの一つだ。
 遡って12月1日に武漢華南海鮮卸売市場から原因不明の肺炎として始まり、この暴露によるクラスター感染以外に接触のなかった40人の患者の感染経路が不明であったと報告されている。
 日本では1月後半に入ってから報道が始まり、1月31日にはWHOが国際的に懸念される公衆衛生上の非常宣言を発したが、同事務局長のテドロス・アドノムは、2月24日の時点で「かなりの症例(感染拡大」を回避するする為)と中国当局の対応を賞賛していた。
 国内的には2月3日に横浜に寄港した米国国籍客船ダイアモンド・プリンセスの3700人以上の乗組員+乗客の中から、台湾で下船した乗客からコロナウィルス感染が認められ、そのまま下船許可を出さず、検疫をしながらの船内待機が2週間ほど続いたのも記憶に新しい。武漢以外の中国国内での感染拡大も確認され始めて、武漢在住日本人の帰国チャーター便が5便ほど手配され、2週間の隔離が実施されたのも周知である。
 当初はアジアだけの話であろうと欧米諸国は油断していたが、英国、フランス、ドイツ、オーストラリアなどにも発生し始め、その後イタリア、イラン、スペイン、少し遅れたが米国本土でも、同じ客船会社のグランド・プリンセスが感染者を出して西海岸に停泊し日本と同じ状況になっただけでなく、ニューヨーク市で急激な蔓延をみているのも直近の出来事である。
 このパンデミックの影響でかなり議論を読んだが東京オリンピック2020は開催を1年延期することとなった。
 現時点では東京都心部で外出の自主規制が引かれ、それをより厳しい非常事態宣言にレベルを上げるかが、すでに起こっている経済的打撃を鑑みて問題となっているが、イタリアのローマ、スペインのマドリッド、ニューヨーク市のように東京がならないためにも、早いうちに感染拡大に一度大きな歯で目をかける必要があるのは、間違いないであろう。
 このようの悲観的な内容で2019年度の報告書を終筆する事は、甚だ遺憾だが、とにかく可及的速やかに国全体として対応し、1日も早い収束を目標とするしかないと考える。

以上