2019年度 活動報告

期間:2019年4月1日〜2020年3月31日

 今年度も昨年に引き続いて、一般の国内医学会以外に、過去3年ほど関わってきたタバコハームリダクション(THR)関連の学会に招待講演を、継続的に依頼され、ポーランド(6月)、韓国(8月)、ブラジル(10月)、イスラエル(11月)に渡航した。こうした会合への参加は、諸外国の喫煙の健康障害に対する直近の取り組みが把握できて、大いに参考になった。

欧州においては、英国とスウェーデンがこのタバコハームリダクションに関しては、THRの先進国と言えることの昨年述べたが、やはり疫学データを基盤に、禁煙できない喫煙者への対策が、良く検討されていると思う。

 世界情勢としては、米国はFDAが加熱式たばこと新規の電子タバコの導入を検討しつつあり、英国に追いついてきたようだが、2019年6月にJAHAに記載された「電子タバコは紙巻きたばこと同様の心筋梗塞のリスクがある」という横断的観察報告、更に電子タバコの使用によって肺障害症例が急増し,死亡例も出ているとされた。心筋梗塞に関しては、比較対照の2群で、電子タバコ群とされた対照は、以前は紙巻きたばこを使用していて、その期間が判明していないことと、あくまで後ろ向きの観察研究であるため、喫煙と同等に棄権だという結論は理論的で内という反論が出た。肺障害に関しては、その後、マリファナを常用していた例と、そうで無いケースも吸入成分にマリファナの抽出成分であるTHCを含有していたフレーバー使用者に限られると判明し、米国だけに見られた特異的なケースであろうと解釈された。

 上記内容は学会出張報告にある、
10/28-30 21st Brazilian Congress of Toxicology & 15th TIAFT Latin-American Regional Mtg.
San Paulo, Brazil Invited Lecture on THR in Japan
11/3-4 1st Inventions & Innovations Symposium Tel Aviv, Israel Invited lecture on Japan
においても、討論され一般的な合意が得られつつある。

 その後、特別なイベントの催されず年末を迎えたが、(火種は2019年12月から中国で起こっていた)2020年明けから異変が起きた。
それは中国湖北省武漢市からの新型コロナウィルス肺炎の感染(COVID-19)問題が勃発したのだった。
当初は日本を含めて諸外国は、SARSの時と同じだろうと軽視していた嫌いがあるが、中国からの旅行者がとても多い我が国は、この時点で中国人の入国を拒否すべきだった。

 1月の後半には香港から航行してきた、クルーズ船ダイアモンド・プリンセスの3700人に及ぶ乗客と従業員のうち台湾で下船した乗客から感染者が出て、結局横浜に寄港して乗客を3週間近く隔離したことは周知であり、後にその方針の是非も問われることになったが、アメリカ国籍の船でもあり、これだけの人数を横浜近辺で隔離できる施設がなかった以上、やむおえない措置だったと思われる。(3/31時点でチャーター便の陽性者は1866人)
 武漢在住の日本人の帰国のチャーター便5便からも感染者は出たが15人に留まった。

2月中までは欧米は、遠隔地での出来事と鷹をくくっていたが、3月に入り、イタリア、スペイン、英国、フランス、ドイツなどにも感染者が出始め、イタリア、スペイン、そして米国で感染者が急増し、3月後半にイタリア、米国は中国の報告者数を上回るに至った。

 日本は、クルーズ船と帰国チャーター便の感染者にフォーカスしての対応が、それなりには功を奏したのかもしれないが、中国人の入国拒否を、初期に対応したロシア、北朝鮮、台湾のように行わなかった為と思われる市中感染が散見され、大阪、奈良などの観光客バス運転手・乗務員、ライブハウス参加者などから蔓延し始めた。

 そうしているうちに3月末までに欧米の主要都市、ロンドン、パリ、ミラノ、ローマ、マドリッド、そしてニューヨーク市が外出禁止指示を出すほどの、感染者の急増を見てきた。

 都内でも台東区浅草の栄寿病院、そこから派生した慶應病院での院内感染も含め、都内での感染者/日が68名を超える昨日など、行政では関東地区でのロックダウンを見当している動きが見られる。未だ未だ先は見えないのである。

臨床医療活動:AOI国際病院の健康管理センター、病院上部消化管内視鏡

 健康診断業務は、開院後7年目となり、受診者は更に増加し60,000弱/年となっている。
健診センター受診者の継続的な増加とともに、契約事業所の増加に伴って巡回健診者数も着実に増加し続けていることによる。
中国を中心としたインバウンドの受診も継続しており、その数は徐々に増加している。
但し、この部分は上記のように、年が明けてからのCOVID-18の中国に始まった世界的蔓延により、しばし頓挫せざるをえなくなってしまった。
昨年度の報告のように、健康診断での内視鏡希望件数が増加し続けているため、私自身が週1,2回上部消化管内視鏡を担当してきたが、健診センター受診者の診察が立て込んできた為、自ら外部の内視鏡医(北里大学医学部消化器内科医)を探して、2019年4月以降は、健診センター業務に専念することとなった。
更にその後の法人の決定で、健診センターで独自の内視鏡室を設立する方針となり、2019年末から部屋の改装と、LANケーブル整備や水道配管その他の設置、が急ピッチに進み、内視鏡医も新規に3名雇用が決まり、次年度4/1より開始となる。

 2018年夏に開始した汐留シティセンターのセントラルクリニックでの、毎週水曜日午前中の外来診察(健診診察6~7割、一般内科診察2割、循環器診療1割)を継続している。診療人数も40-50名、結果判定が15名平均である。
第2、4土曜日の大手町パレスビルクリニックの人間ドック診療も継続中で、午前と午後の診察も引き受けて実施している。

心臓血管外科医師としての手術手伝い

 今年度も、心臓外科臨床経験としては、済生会横浜市東部病院でのTAVI(経皮的大動脈弁置換術)とTEVAR(経皮的血管内大動脈置換術)手伝いとなった。
2019年4月から、2020年3月末までで、24例のTAVIと1例のTEVARの症例に立ち会った。TEVARは48歳男性でB型解離慢性期の大動脈拡大だったが、TAVIは全例75歳以上の高齢者で、ハイリスクの為開心術が望ましくないケースであった。 

学術集会参加:各学会参加報告参照のこと

6/8 第180回日本胸部外科学会関東甲信越地方会 都市センターホテル/ 東海大学外科 小澤壯治
6/12-14 6th Global Forum on Nicotine 2019 Warsaw, Poland Invited lecture on THR in Japan
6/15-16 第19回日本抗加齢医学会総会 パシフィコ横浜/慶應義塾大学腎臓内分泌代謝 伊藤裕
7/25 第60回日本人間ドック学会学術大会 岡山グランビア/(財)淳風会健診センター長 井上和彦
8/28-29 3rd Asian Harm Reduction Forum ソウル,韓国 Invited Lecture on THR in Japan
10/12 第49回日本神経精神薬理学会 福岡国際会議場/慈恵会医科大学精神科 宮田久嗣
10/28-30 21st Brazilian Congress of Toxicology & 15th TIAFT Latin-American Regional Mtg.
San Paulo, Brazil Invited Lecture on THR in Japan
11/3-4 1st Inventions & Innovations Symposium Tel Aviv, Israel Invited lecture on Japan

これ以降の医学会総会は、COVID-19問題のため、すべて延期となった。
 

研修・講習会参加

 
5/29 東京大学工学部:肝臓がんのエマルジョンによる血管内治療についてのレクチャー 柳衛宏宣
5/31 済生会横浜市東部病院循環器科主催勉強会 「Mitral Clipについて」川崎駅前AP
7/1 AOI国際病院にての「Mitral Clipについて」の医局説明会
11/15 慶應産業保健研究会・特別研修会 「産業医業務とリスクマネージメント」他 パソナ本社
11/16 第1回キングスカイフロント循環器コース Medtronic Innovation Center/AOI国際病院循環器科
1/25 産業医研修会 「アスベストによる健康障害の最新の知見」神奈川産業保険支援センター

この後の研修・講習会は、COVID-19問題のため、すべて延期となった。
 

勉強会主催:会場は第41回の銀座吉の翔での開催以外、東京アメリカンクラブ

 
6/8 第37回抗加齢・統合医学研究室勉強会 「Tobacco Harm Reductionについて」
抗加齢・統合医学研究室室長 AOI国際病院副院長 熊丸裕也
6/22 第38回抗加齢・統合医学研究室勉強会 「チベット医学:自然治癒における意識変容」
ダライラマ主治医Barry. Kerzin M.D.
7/20 第39回抗加齢・統合医学研究室勉強会 「レジリエントで持続可能な健康のために」
アルケミアこころとからだの相談室代表 岸原千雅子
8/31 第40回抗加齢・統合医学研究室勉強会「きのこ・菌糸体の機能性を科学する」
応用きのこ総合研究所理事長 中村友幸
1/4 第41回抗加齢・統合医学研究室勉強会「癌に対する免疫療法の意義、丸山ワクチン作用の実体」
漢方・免疫たかはし内科クリニック院長・日本医科大学名誉教授 高橋秀実
2/15 第42回抗加齢・統合医学研究室勉強会「グリーフケアについて」
中央病理診断科クリニック院長 木口英子
(各勉強会の報告書あり、参照のこと)

産業医活動

医療法人社団 葵会AOI国際病院(職員全体)と附属老健施設「葵の園川崎南部」の産業医
前者は毎月第3火曜日午後安全衛生委員会、後者は毎月第2木曜日午後安全衛生委員会

その他;

健診センター契約先:2019年1月で常勤の瀬田医師が退職した為産業先が急増
  • 日本環境衛生センター:毎月訪問
  • 東京油槽(株):3ヶ月おき訪問
  • 旭屋ミートセンター:3ヶ月おき訪問
  • ペプチドリーム:3ヶ月おき訪問
  • 三協興産:3ヶ月おき訪問
  • 日本物流センター:3ヶ月おき訪問
  • 丸全昭和運輸(株):時間外超過職員の面談多数
  • 山九十機工(株):時間外超過職員の面談多数

個人契約の産業医先:

  • ファーマインターナショナル:毎月第2水曜日午後訪問
  • (株)丸紅フットウエア:毎月第2水曜日午後訪問

医療顧問として

 産業医先でもあるファーマインターナショナルは医科向け広告代理店であり、様々な医療分野で医学的な質問、専門医の意見聴取を求められ、可能な限り対応。KOLの面談希望の場合は紹介もしている。

個別医療相談

 友人、知人からの医療・健康相談にも従来通り可能な限り応じており、専門医受診希望では、紹介も行っている。

その他

何と言っても今年度の最大の問題は、前述のようにCOVID-19のパンデミックな蔓延である。事は中国の武漢で12月前半に始まったようだが、中国はその公表を可能な限り遅らせた感がある。国内では耳鼻科医がネットで警告を発したが、ほとんど無視された上に、本人がこの病気で後日他界しているのも、悲劇の始まりの一つだ。

 遡って12月1日に武漢華南海鮮卸売市場から原因不明の肺炎として始まり、この暴露によるクラスター感染以外に接触のなかった40人の患者の感染経路が不明であったと報告されている。

 日本では1月後半に入ってから報道が始まり、1月31日にはWHOが国際的に懸念される公衆衛生上の非常宣言を発したが、同事務局長のテドロス・アドノムは、2月24日の時点で「かなりの症例(感染拡大」を回避するする為)と中国当局の対応を賞賛していた。

 国内的には2月3日に横浜に寄港した米国国籍客船ダイアモンド・プリンセスの3700人以上の乗組員+乗客の中から、台湾で下船した乗客からコロナウィルス感染が認められ、そのまま下船許可を出さず、検疫をしながらの船内待機が2週間ほど続いたのも記憶に新しい。武漢以外の中国国内での感染拡大も確認され始めて、武漢在住日本人の帰国チャーター便が5便ほど手配され、2週間の隔離が実施されたのも周知である。

 当初はアジアだけの話であろうと欧米諸国は油断していたが、英国、フランス、ドイツ、オーストラリアなどにも発生し始め、その後イタリア、イラン、スペイン、少し遅れたが米国本土でも、同じ客船会社のグランド・プリンセスが感染者を出して西海岸に停泊し日本と同じ状況になっただけでなく、ニューヨーク市で急激な蔓延をみているのも直近の出来事である。

 このパンデミックの影響でかなり議論を読んだが東京オリンピック2020は開催を1年延期することとなった。
現時点では東京都心部で外出の自主規制が引かれ、それをより厳しい非常事態宣言にレベルを上げるかが、すでに起こっている経済的打撃を鑑みて問題となっているが、イタリアのローマ、スペインのマドリッド、ニューヨーク市のように東京がならないためにも、早いうちに感染拡大に一度大きな歯で目をかける必要があるのは、間違いないであろう。

 このようの悲観的な内容で2019年度の報告書を終筆する事は、甚だ遺憾だが、とにかく可及的速やかに国全体として対応し、1日も早い収束を目標とするしかないと考える。

以上