2024年度 活動報告

期間:2024年4月1日〜2025年3月31日

 

 2020年当初に国内でも罹患患者を認め、世界的なパンデミックと共に多くの重症例と死亡例も発生したCOVID-19も、その後の感染対策としての企業のテレワーク導入や、教育施設のWeb利用による変革と共に、ワクチン開発、ウィルス株の変異の影響により、昨年5月には国内でもインフルエンザと同じ第5類に指定された。重症化や死亡も格段に減りはしたが、感染性はむしろ高まったのか、未だに新規発生も少なくはない。
最近の変化として、2020~2022年には発生数が激減していたインフルエンザも、2023年冬から増え始め、2024年には各地で学級閉鎖などが出るほど流行し、直近の冬も警報発令が必要になるほど流行した。また、マイコプラズマ肺炎が流行し、学童の間で蔓延したものが、親族にも感染という報告も少なくなかった。

臨床医療活動:AOI国際病院の健康管理センター診察・判定と読影、上部消化管内視鏡

 昨年に引き続き、主な職場であるAOI国際病院での健康診断受診者数は増え続け、院内受診者も毎日≧100名であり、巡回健診も≧3カ所/日の日程がかなり増えた。
 受診者と共に検査数も増えているため、結果の判定や読影の数も多く、昨年度の放射線科成松医師の退職(ご自身のアミロイド心の診断)などにより、私自身の腹部超音波読影は、巡回健診での数が特に多く、負担になるほどの数を課せられているというのが現況である。放射線科のパート医を募集中。
 上部消化管内視鏡検査は、病院内視鏡室と健診内視鏡室で3枠をこなすための非常勤医師にて実施し、ほぼフル稼働が続いた。そのため私自身は健診内視鏡医が休みの時にカバーする形を取り、≦1回/月程度の頻度で検査を担当した。

院外臨床活動

 汐留シティセンターのセントラルクリニックでの、毎週水曜日午前中の外来診察(健診診察6~7割、一般内科診察2割、循環器診療1割)も、今年度も継続している。今年度は初夏の頃、職場健診の契約企業が増えたことが原因と思われるが、受診者数が急激に増え、午前中だけで受診者数≧80人という日もあったが、その後少し減ってきた。
昨年度から、以前、毎月一度は勤務していた北海道東部の町立厚岸病院も依頼頻度が減り年に2,3回のペースになってきたため、先ず第1土日に市川の大野中央病院での日当直、更に夏以降、第3土曜日に静岡のNTT東日本伊豆病院での日当直勤務を、取り敢えず毎月続けている。
 また土曜日を利用した、関東の様々な場所での内視鏡検査のスポット勤務、訪問診療のスポット勤務も今年度は数多くこなした。

心臓血管外科医師としての手術手伝い

 2024年度の心臓外科臨床経験としては、済生会横浜市東部病院でのTAVI(経皮的大動脈弁置換術)と川崎市立川崎病院でのPacemaker植え込み術の手伝いを実施した。

学術集会/討論会参加:今年度もコロナウィルス感染症の影響もあり、多くの学会が、現地とWeb参加でのハイブリッド開催となったが、近隣のパシフィコ横浜で開催された人間ドック予防医療学会は現地参加とした。

5/31-6/2:第24回日本抗加齢医学会総会 熊本大学大学院生命科学研究部遺伝子分子
教授 尾池雄一会長

9/6-9:第65回日本人間ドック・予防医療学会学術大会 三井記念病院総合健診センター
石原裕子会長

研修・講習会参加

2/22 認定産業医研修会 神奈川産業保険支援センター:「事例に学ぶ職場のメンタルヘルス講師/保健支援センター相談員 高畑玲子
総務省による職場におけるメンタルヘルスの問題で休職となった原因を調査した結果、上位3項目は職場の対人関係(上司・同僚・部下)、業務内容(困難事案)、本人の性格に続いて元々の精神疾患の悪化であった。長期休暇の原因疾患の内訳を見ても悪性新生物、循環器疾患、消化器疾患は殆ど変わらぬのに、精神及び行動の障害は令和4年まで過去12年間増加し続けている。これは問題とすべきだが、一方でメンタルヘルス不全は、症状を数値化しにくい、精神疾患の改善度と業務遂行能力との間に解離がある、発症に関与する心理的要因が多岐にわたる、職場にはメンタルヘルスの専門家がいない、などの課題もある。
 メンタルヘルス不全者が産業保健スタッフの相談に至るには、本院からの健康相談、上司・人事・総務からの相談、ストレスチェックの高ストレス者面談、長時間残業者面談、何らかのトラブル・エピソード後のフォローなどによる。
 面接を始めるに当たって注意するポイントは、面談内容の守秘は基本ながら業務上の配慮を要する場合本人の了承を得て上司・人事部と連携する場合もあることを説明し、話の途中で終了して見捨てられたと勘違いされぬよう、初回を除いて予め終了時間を明確にし、相手の気持ちを理解しているとわかるよう「傾聴」すること。また、面談者の話は一方的で客観性に欠ける場合も有り、職場にストレスの原因となる人物がいる場合など、現場の状況を多面的に把握しておく必要があることを認識すべき。更に、本人に問題意識がない場合や、心の病気による面談に抵抗がある場合、「最近疲れていませんか?」や、「よく眠れていますか?」など身体的な症状、職場の状況を尋ねるのが望ましい。健康診断結果の事後措置、過重労働の問題としての面談の際に付加的に行うことも良い。

 面談で確認すべきポイントとして、

心身の状況・自覚症状:疲労蓄積度、睡眠の状況、気分の変化や食欲、休日の過ごし方
勤務状況:職位、業務内容、経験年数、残業時間、人間関係、上司・同僚の支援度
ライベートの状況:家族構成、生活環境、既往歴、治療歴
ストレスの有無

 それによって産業医が判断すべきこととして、

医療が必要な状況か?:身体症状が主体でもストレス関連の場合も多い。心療内科受診て休職を勧められることもある。
就業場の配慮が必要か?:上司・衛生管理者・人事との連携によるが、本人が拒否しても必要な婆もある
今後のフォローが必要か?:必要な場合その時期?

上記の結果休職となった場合、休職中のケアとして、

本人もしくは家族からの、定期的な診断書の提出
状況の確認:基本として上司が連絡を取るが、職場不適応・上司との対人関係に問題がある場合、上司以外の連絡者を決めておく。(産業保健スタッフ、本人が希望する同僚など)
休職開始直後は職場からの連絡で病状悪化もあり得るので要注意、本人でなく家族に連絡を取る。
休職の前に、産業医が主治医と直接連携をすることにつき文書で本人の承諾を得ておくと良い。

休職中の問題点として、

・適切な治療が受けられているかの確認が取りづらく、適切でない場合の医療施設の変更も困難
・家族が職場との接触を拒み状態は悪罵難しい場合がある
・本院が復職を焦り、症状が改善していなくても隠す場合がある
・主治医が業務状況を考慮せずに復職許可を出す
・本人が復職可能となっても職場に問題があり、対応困難な場合
・本人の職場に対する不満が多く過大な配慮を期待する場合
・休職・復職制度の規定が社則としてない場合、事例ごとに対応が異なり不公平が生じうる。

休職後の職場復帰の復職条件として、

① 主治医から「復職可能」の診断書が出されること
② 通勤が安全にできること
③ 日常生活が支障なく送れていること
④ 定時間職場で仕事ができること(強い不安がないこと)

だが、注意点として、日常生活に支障がない≠復職可能ということ。
産業医と主治医との連携は重要で有り、
復職に当たっては主治医に意見書を依頼し内容は、現在の症状、治療状況、今後の通院予定、具体的な就業上の配慮が必要となる。事前に会社の制度、職場状況、本人の担当業務などの情報提供をしておくことも重要。
慣らし出勤を採用している事業所も多く、人事労務管理上の規定として社員に周知しておく必要がある。休業扱いで開始する場合事故に遭っても労災とならない為に保険加入を勧める場合が有り、事業所外資源でりワークプログラムの利用も可能である。

職場復帰の際の問題点としては
① 復帰判定に客観的な基準がない
② 完全治癒は少なく、寛解状態での復職が多い
③ 主治医が診断書に記載する病名がわかりにくい
④ 軽作業が望ましいと言うような記載の意味が不明確
⑤ 背伸び復職が少なくない
⑥ 負担軽減目的の職場配置転換が降格人事と誤解される場合がある
⑦ 試し出勤の問題
等がある。

こうして休職後の復職が実施されているが、初発のうつ病患者の再発率は30%、再発者の再々発率は≧90%、メンタルヘルス不全による休職者の再休職率は≧50%(概ね6ヶ月以内)とされており、復職後1年は慎重にフォローすべきである。

 この後対応が困難で有った事例の紹介が有り、
復職規定がないため、主治医の意見書のまま特別待遇で勤務を認めてトラブルになった例、
同僚に妄想を抱いた統合失調症の例、精神疾患が身体症状の表現型として現れ、頭痛・眩暈・下痢・倦怠感の原因が実はうつ病であった例、適応障害・人格障害が原因で周囲からの理解がなく不当な扱いと他罰的人り実は治療を要した例、高次機能障害が自他共に認識されず業務遂行ができない例(きちんと診断を受け、能力に合う業務を与える)、発達障害の為周囲との協調ができない、挨拶・会話が苦手、スケジュール管理や仕事の優先順位がつけられない例(仕事に指示は文章で具体的に、一度に1つずつの仕事を指示で対処)、所謂新型うつ病と呼ばれる自己中心的な性格の例、等が挙げられ、具体的な対応の説明もあった。
 この研修は時期的には前年度のものだが、記載漏れであったため今回ここに記載することとした。内容的には私自身16年以上の産業医業務で殆どのことを経験しており、理解しやすく、お復習い的な研修となった。今後もこの方針で続行するつもりである。

5/23 認定産業医研修会 神奈川産業保険支援センター:
休職と復職を繰り返している従業員への産業医としての対応講師/産業保険相談員(産業医科大学卒)伊藤裕泰

 前回の研修会と関連の深い内容で、復職しても結局再休職する、復職後度々休む状態である、出社しても座っているだけ、危なっかしくて仕事場任せられない等問題のあるケースもあり、この場合、往々にして休職期間満了の直前に復職するケースが多い。
 いくつかの事例提示の前に演者が、根源的な原則を説明し、肝要なのは病気があるかないかではなく、業務に支障があるかに着目。会社は働く場所であるから、産業医は個別労働者が業務の遂行が可能かを医学的に判断するのが役目である。重要な点として、安全(A)、勤怠(K)、パフォーマンス(P)を評価するがそれぞれ、A:事故・トラブルを起こしたり、体調を崩したりせず、安全に会社で勤務できるか?K:勤怠を乱さず定期的に出勤できるか?P:職位に応じた業務をこなせるか?と言う基準で判断。

 1例目は平成27年に経験した日本電気の40歳男性のケースで、総合職として入社直後からトラブルが続く男性は、2年目にソフトウェア開発部門に希望して出向するも、3ヶ月で出向先から引き取り要求が来て出向解除。3年目は体調不良を訴え、7年目に統合失調症疑いで休職→高機能自閉症と診断された。8年目にデイケアなどでコミュニケーション能力改善のプログラムを半年受け、9年目に通常勤務可能の主治医診断をもって、ソフトウェア開発部門異動希望。しかし面談で、社長名、総理大臣名などが言えず、提出すべき生活記録も記載がなく、試験出社でも軽作業はできても、居眠りを頻繁に注意されて改善せず、総合職の適性がないと判断され退職となった。病名はともかく職務を遂行できない事が最大問題のケース。

 2例目は製造業で働く50代男性で、勤続25年予算の編成や管理をこなしてきたが、5年前に母親が自宅で倒れ救急搬送されて入院、その後も食事や排泄の介護が必要な状態で、2年間の介護休暇を取得。3年前に介護のため時短勤務で復職したが、その1年後母親の認知症が発病し、有給休暇を使い果たすほどになった。その後内科医の診断書(体調不良)を提出し、傷病休暇を取るようになり、1年前に復職はした。しかし母親な介護、自分の体調不良を理由に月平均10前後の欠勤が続いた。上司が数回の面談後、メンタルヘルス不全を懸念し社内窓口への相談を促したが拒否。それが持続して社内の就業規則上許されない状況となり退職。勤怠、パフォーマンスが不十分というケースである。

復職水準の例として

1)始業・就業時間を守って所定時間働けること(通常8時間)
2)自力で安全に通勤できること(配偶者による送迎は可能)
3)業務遂行に必要な機器(OA等)を支障なく操作できる、工場ならば機器を操作可能
4)同僚とコミュニケーションを取り協調的に業務遂行可能
5)時間外労働・休日労働ができること(月20時間程度)
6)国内出張できる

であり、このためのアドバイスとして、休職前と同等の生活リズム・体力・集中力が必要となる。

 生活リズムは、起床・就寝時間、同じリズムでリワーク・ジム通い・散歩
 体力作りはウォーキング、ジョギング、筋トレ
 集中力作りは読書、新聞、雑誌

試し出勤、時短勤務も活用して、基準をクリアできなければ再休職も有り、主治医には会社が求める復職可のレベルを伝え、改善した根拠を問い合わせることも必要。そして復職可の判断は、産業医単独ではなく関係者が一同に介して判断することが肝要。

 復職の最大の目的は前述の通りで、労働契約法に
第5条:使用者は労働者がその生命、身体等の安産を確保しつつ労働ができるよう必要な配慮をする。
第6条:労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて双方が合意することにより成立する。

 とされていることを再確認すべき。

7/8 認定産業医研修会 神奈川産業保険支援センター:
「健康起因事故防止(主に陸運業対策)」神奈川産業保健総合支援センター産業医保健相談員 村上稔

現代の生活は陸運によって支えられており、ドライバー不足は大きな問題になりつつある。何故それが起きているのかというと

 若者の運転免許取得率の低下
 労務負担や危険性を考えると給与が安い
 もっと楽な安全な仕事へ これによって物流性が低下、その結果日常の生活だけでなく、建設資材が届かない事でリフォームなどの建築にも影響!

このことに影響を与えていると考えられるのが、健康起因事故で、車両運転意外にも機器の操作が有り、本来正常に機能する人間が操作。しかし

 他に注意が向く(スマホのながら運転や移動)
 SAS、低血糖、眠剤の服用など覚醒度の維持の障害
 白内障、近視の矯正不足、網膜出血による視力障害 等が影響

この問題の課題として、
疾患リスクを低減するための、平時からの健康増進を如何に推進するか?
健康診断等に基づき、運転車の健康管理と週五油状の判断・対処をどのように実施するか?
③ 乗務前の点呼などで、如何に運転者の健康を確認し乗務の可否を判断すべきか?
④ 務中に運転者の健康状態に問題が生じた場合、如何に対処すべきか?

陸上運送の現実-1は、輸送量で見るとトラックによる油槽が約5割内海輸送が約4割で、その他鉄道や航空輸送

陸上貨物輸送の内訳は
① 消費関連資材  約4割
② 生産関連資材  約3割5分   陸運が生活基盤を支えている!
③ 建設関連資材  約2割5分

トラックドライバーの構成年齢と健康

中型・小型の平均年齢は45.4歳、大型は47.5歳(H28年データ)であり、20年後の今は更に高齢化しており、免許制度もH29年より普通免許では積載重量2t迄となり、それより重いトラックでは準中型、中型、大型免許が必要となった。つまり免許取得のハードルが上がり、高齢化が進むドライバーに対して、これまでの健診項目で安全運転が可能か?

陸上運送の現実-2(企業規模と従事者)売上高別に見ると

① 1億円未満  6,700社 
② 5億円未満 13,000社   これらは従業員<50名
③ 50億円未満 6,000社
④ 50億円以上   500社   これらは有名企業

圧倒的に中小企業が多く、限られた売り上げから経費を引いたら経営困難

貨物自動車運送事業には業態で区別が有り、一般貨物自動車運送事業、特定貨物自動車運送事業、貨物軽自動車運送事業の3つ、自家用(白ナンバー)と事業用(青ナンバー)の区別も有り。

陸上運送の法律

① 貨物自動車運送事業法-貨物自動車運送業輸送安全規則
② 道路運送車両法
③ 道路交通法-医師の診察を受けたものが、運転業務に支障があると認められた場合、当該結果を公安委員会に届け出ることができる。

貨物樹同社運送業安全規則第3条

第4項:この事業者は、休憩または睡眠のための時間及び勤務が修了した後の休息の時間を確保しなければならない
第5項:乗務員等の健康状態の把握に努め、疾病、疲労、睡眠不足その他の理由により安全に運行業務を遂行、またはその補助が出来ない恐れがある乗務員等を運行業務に従事させてはならない。

陸上運送の法律(安全規則第20条)

トラック運行管理者の業務
5.乗務員の健康状態(1年ごとに1回、深夜業務のものは半年に1回健康診断)を把握し、疾病、疲労、睡眠不足その他の理由により安全に運行業務を遂行、またはその補助が出来ない恐れがある乗務員等を運行業務に従事させない。
6.長距離運転または夜間運転する場合、疲労等により安全に運転を継続することが出来ない恐れがあるときは、予め交代運転手を配置する。

陸上輸送の法律:改正2024問題など

働き方改革関連法で定める時間外労働の上限規制により物流業界で発生する問題で、物流運輸業界ではこの規制が5年間猶予されていたが、2024年4月からの運用となった。
→トラックドライバーの拘束時間の短縮や、移動距離の制限、時間外労働への割増賃金引き上げなどが前提となり、対策のなされていない物流業者は問題を抱えている。
現実には:中小零細が多い業界ではドライバー確保が難しく、荷主との力関係で利益が確保出来ずに、無理な操業や倒産件数が増加!

現実的な長距離便(1泊2日)の勤務

富山市で午前0時スタート、6時間後に神戸市で待ち時間3時間後に荷下ろし1時間、近傍工場に移動で荷積み5時間。その10時間後(仮眠4時間、待ち3時間)に横浜で荷下ろし、とんぼ返り。◎連続拘束時間で緊張、運転姿勢の負担、不適切な食事内容や睡眠不足、通院機会の逸失など問題多々。