2023年度 活動報告

期間:2023年4月1日〜2024年3月31日

 

 我が国で2020年初頭に始まった新型コロナウィルス感染症(COVID-19 )も、その後国内だけで無く世界的にパンデミックとなり、重症例、死亡例も発生してきたが、ワクチンも開発され、その後の新種株にも対応するワクチンが開発され、自施設でも実施してきた。その効果もあってか、2023年1月にも新規患者増加のピークは認めたものの、重症化、死亡例の確率は高くなく、オミクロン株の感染力は高いものの、毒性は低いと考えられた。その影響もあり、その後、医療施設逼迫の傾向も認められなくなり、3月13日(月)からは、マスクの着用義務化が解除された。私も屋外歩行中は大体外している。
 その後5月の連休明けには、コロナウィルス感染症を感染症2類から5類に格下げすることとなり、コロナウィルス感染症は収束してきたと行って良い。
 その後も年末から年明け、更に、2月、3月にそれまでかなり減少していたインフルエンザ感染症と共に散発的な外来、院内発生を認めたが、重症化を伴う症例は無く問題にはなってきていない。

臨床医療活動:AOI国際病院の健康管理センター、病院上部消化管内視鏡

 コロナウィルス感染症の健康診断への影響は、前年度同様殆ど無く、健康管理センターへの受診者数も、院内受診者が85~110人/日、巡回健診は多い日には5カ所で実施され、100~300人と増え続けており、月あたりの受診者数はそれぞれ2000人~4000人に及び、合計≧7000人(11月)になる月もあった。結果、年度末の予測受診者数は57000人を超し総売上げも昨年より900万円ほど増加し、8億3千万円を超えた。
 内視鏡検査については、今まで通り病院内視鏡室と健診センター内視鏡室の両方で症例をこなしており、15~20例/日を実施中。健診センターの木曜日は定期のパート内視鏡医が10月中旬から休業となった為、私が内視鏡検査を実施してきた。尚、次年度の4月以降は内視鏡パート医も東邦医科大学より定期的に来てくれる予定。

院外臨床活動

 汐留シティセンターのセントラルクリニックでの、毎週水曜日午前中の外来診察(健診診察6~7割、一般内科診察2割、循環器診療1割)も、今年度も継続している。診療人数も40-50名、結果判定が15名平均である。
 2023年2月以降土曜日の時間が空いたことも有り、主に内視鏡検査のスポット勤務を、牧田総合病院健診センター、渋谷コアクリニック、クリニカルリサーチ東京病院、佐倉市民病院健診センターなどで実施した。

その他

 2020年後半より始めていた、北海道東部の町立厚岸病院で、毎月2泊3日前後の診療支援は、先方の勤務態勢もあるのか毎月では無くなった。近隣の摩周厚生病院なども過疎化の進むことでその医療体制は、北海道の主要都市以外では問題があり、慢性腎不全患者に対する透析が大きな課題の一つとなっている。町立厚岸病院にも透析施設があり、透析患者管理を学んで支援できるようになってきた。このknow howは一昨年3月から始めた、千葉市川市の大野中央病院での第1土日の日当直でも、透析室があるため、月曜日まで祝日連直の際役立てている。

心臓血管外科医師としての手術手伝い

 2023年度の心臓外科臨床経験としては、済生会横浜市東部病院でのTAVI(経皮的大動脈弁置換術)と川崎市立川崎病院でのPacemaker植え込み術の手伝いを実施した。

 TAVIの14症例の内訳は、77-92歳(平均84.0歳)で男性5例、女性9例で、使用した弁はSapien 3(Edwards)が12例、Evolute Pro+(Medtronics)が2例であり、1例で手技中にARが原因と思われる徐脈と低血圧を認め、PCPSの使用を要した。

 Pacemeker植え込み術は、期間中5例で男性3例、女性2例、年齢74-91歳とTAVI同様高齢者ばかりであった。DDDモード Pacemakerが4例、VVIモード Pacemakerが1例で、後者の1例は、昨年と同様、近年話題のleadless pacemaker Micra(Medtronics)であり、Pacemaker本体が、リード線なしに右心室内に植え込まれるというものである。更に今回は川崎市立病院心臓外科の森医師の研究テーマである、脊髄冷却装置の関連から、下肢の神経痛に対して、脊椎の硬膜外にリードを留置し電気的に適度に刺激して鎮痛する装置の植込みにも立ち会った。大変興味深かった。

学術集会/討論会参加:今年度も、引き続きコロナウィルス感染症の影響で、殆どの学会が、現地とWeb参加でのハイブリッド開催となった。
4/27-29 第123回日本外科学会定期学術集会 慈恵医科大学外科教授 大木隆生 会長

6/9-11 第23回日本抗加齢医学会総会 東京大学医学研究科産婦人科教授 大須賀 穣 会長

9/1-2 第64回日本人間ドック学会学術集会 群馬大学名誉教授 村上正己 会長

9/25-30 African Health Harm Reduction Conference  にて講演

2024/3/8-10 第88回日本循環器学会学術集会 神戸大学医学部循環器内科教授 平田健 会長

研修・講習会参加

12/7 認定産業医研修会 神奈川産業保険支援センター:「石綿関連疾患の診断と臨床」講師/横須賀市立うわまち病院呼吸器内科部長 上原隆志医師 先ず石綿に関する総論から始まり、石綿の種類、日本における輸入・使用の歴史、職業別の暴露の種類、石綿関連疾患の病態の解説があり、胸膜プラークのCXP,CTでの診方を丁寧に説明し、大変わかりやすく為になった。石綿による肺癌、胸膜中皮腫についても解説があり、中長期の暴露で起こる疾患により、未だに患者が現存していることもよく分かった。

12/14 認定産業医研修会 神奈川産業保険支援センター:「石綿関連疾患診断技術読影研修」講師/浜松労災病院呼吸器内科部長 豊嶋幹生医師・横浜労災病院アスベスト疾患ブロックセンター長 小澤聡子医師 前週に引き続き、石綿関連疾患の診断で画像の読影の講習である。先ず豊嶋医師は、肺病変としての石綿肺、円形無気肺、肺癌、そして胸膜病変として、胸膜プラーク、悪性中皮腫(胸膜や心膜のみならず、腹膜、精巣鞘膜にも認めるのは驚き)、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚に触れ、わかりやすい説明であった。石綿の被爆年数と病態の関連も、石綿肺、胸膜肥厚、良性胸水は初期の10~30年に認め、その後40年、50年と肺癌や中皮腫などの悪性腫瘍となることも理解しやすかった。続いてそれぞれの病態での胸部単純レントゲン、CT画像の特徴を提示されて理解できた。続いて小澤医師によって12例の実例を提示され、参加医師に所見についての意見を尋ねながら、解説を加えてくれて、とても勉強になり良い実地研修だった。

12/15 慶應医師会産業医研修会 慶應義塾大学医学部 新教育研究棟:「第14次労働災害防止計画について」講師/聖マリアンナ医科大学 予防医学家教室主任教授 高田礼子医師:労働災害防止に関する近年の動向は、第13次の防止計画期間2017-2022年で死亡者数は15%減少と目標達成したが、休業4日以上の死傷者数では5年で5%以上減少と言う目標が未達成。主な要因としては第三次労働者の増加、高年齢労働者の増加、作業行動による災害(転倒、無理な動作:腰痛など)の増加があるとされる。60歳以上の高齢者の就労が年々増えており、それに伴い同年代の4日以上休業の死傷者の割合も増え続け2022年では28.2%、中でも転倒(女性で特に高い)、墜落・転落が課題となっていることが判明。そこで第14次労災防止計画2023~2027年(2023/3/27公示)で、①自発的に安全衛生に取り組むための意識啓発、②労働者の作業行動に起因する労災防止対策の推進、③高年齢労働者の労災防止計画の推進、④多様な働き方への対応や外国人労働者の労災防止計画の推進、⑤個人事業者に対する安全衛生対策の推進、⑥業種別の労災防止計画の推進(陸上貨物運輸業、建設業、製造業、林業)、⑦労働者の健康確保対策の推進(過重労働、メンタルヘルス、産業保健活動)、⑧化学物質等による健康障害防止対策の推進(化学物質、石綿、粉塵、熱中症、騒音、電離放射線)、の8つの重点項目が挙げられた。
各重点項目において、アウトプット指標とアウトカム指標を定めて、①安全衛生対策には人的投資、②作業行動に起因する労災防止には先ず転倒防止対策、腰痛予防と安全衛生教育、③エイジフレンドリーガイドラインに基づく安全確保、④コロナ禍におけるテレワークに対するメンタルヘルスや外国人労働者への安全衛生教育マニュアル作成、⑥陸運、建設、製造、林業における業種に合わせた安全衛生対策、⑦過重労働の抑制に、疲労蓄積度自己診断チェックリストを提供し、ストレスチェックと共に活用する+産業保健活動、⑧化学物質、石綿、粉塵などの有害物質、熱中症、騒音、更に電離放射線などに対する作業環境の見直しを提案している。
テレワークを行う労働者の健康管理のポイント」講師/(株)みずほ銀行産業医 山村 憲医師・日本生命保険相互会社産業医 古屋善章医師:2019年にテレワークにおける適切な労務管理のガイドラインが厚労省から提示されたが、コロナ禍による影響により急激に国内で普及することとなった。それによって更に2021年の改訂に続き、メンタルヘルス対策のガイドラインも公示されてきた。こうした現状の解説の後、後半はグループディスカッションの形を取り、Case1:650人の従業員をモツ小売業で平均年齢54歳、8割が女性社員でコロナ禍により社内改革もあって、週2,3日のテレワークが導入されたが、定期健康診断で血清脂質高値、血糖高値の有所見者が増加、VDT障害を示唆する有症状者が増えたが、産業医としてどのような改善策を提案するか?Case2:従業員90人の関連会社のテレワークで32歳男性の米国担当の社員がシステム障害に対応した後、業務ができないと連絡、適応障害との診断書が提出されたが、産業医としてどう対応するか?
と言うケースワークで討論した。様々な意見が出て興味深かった。

12/21 日本医師会認定産業医Web研修会 「職場の新たな化学物質管理と産業医の接点~リスクアセスメント対象物健康診断について」講師/労働安全衛生総合研究所 化学物質情報管理研究センター 化学物質情報管理部長 山本健也医師:

1/25 認定産業医研修会 神奈川産業保険支援センター:「職場における発達障害」講師/神奈川産業保健総合支援センター相談員 伊藤裕泰医師

この後の研修・講習会は、COVID-19問題のため、地域医師会主催のもの以外すべて延期となった。

勉強会主催:今年度の勉強会は、コロナ感染症に対しても2023年5月より第2類から5類への移行が実施され、公共の場所でのマスク着用も任意となり、様々に緩和されてはきたが、勉強会メンバーの都合もなかなか合いにくく、誠に残念ながら開催できなかった。

産業医活動

医療法人社団 葵会AOI国際病院(職員全体)と附属老健施設「葵の園川崎南部」の産業医
前者は毎月第3火曜日午後安全衛生委員会、後者は毎月第2木曜日午後安全衛生委員会

健診センター契約先:

 東京油槽(株):3ヶ月おき訪問

 旭屋ミートセンター:3ヶ月おき訪問

 ペプチドリーム:6ヶ月おき訪問

 丸全昭和運輸(株):時間外超過職員の面談多数

 山九十機工(株):時間外超過職員の面談多数

個人契約の産業医先:

 ファーマインターナショナル:毎月第2水曜日午後訪問

 (株)丸紅フットウエア:毎月第2水曜日午後訪問

 アントワークス社:3~4ヶ月おきの会社訪問(6/21、10/18)

 アマゾン/ジャパン仙台支社:2ヶ月おきのWeb会議(2023年8月で終了)

 川崎南地区産業保健センター:3~4ヶ月おきの訪問(7/19、11/22、3/27)

医療顧問として

 産業医先でもあるファーマインターナショナルは医科向け広告代理店であり、様々な医療分野で医学的な質問、専門医の意見聴取を求められ、可能な限り対応。KOLの面談希望の場合は紹介もしている。

個別医療相談

 友人、知人からの医療・健康相談にも従来通り可能な限り応じており、専門医受診希望では、紹介も行っている。

その他

 何と言っても今年度の最大の問題は、前述のようにCOVID-19のパンデミックな蔓延である。事は中国の武漢で12月前半に始まったようだが、中国はその公表を可能な限り遅らせた感がある。国内では耳鼻科医がネットで警告を発したが、ほとんど無視された上に、本人がこの病気で後日他界しているのも、悲劇の始まりの一つだ。
 って12月1日に武漢華南海鮮卸売市場から原因不明の肺炎として始まり、この暴露によるクラスター感染以外に接触のなかった40人の患者の感染経路が不明であったと報告されている。
 日本では1月後半に入ってから報道が始まり、1月31日にはWHOが国際的に懸念される公衆衛生上の非常宣言を発したが、同事務局長のテドロス・アドノムは、2月24日の時点で「かなりの症例(感染拡大」を回避するする為)と中国当局の対応を賞賛していた。
 国内的には2月3日に横浜に寄港した米国国籍客船ダイアモンド・プリンセスの3700人以上の乗組員+乗客の中から、台湾で下船した乗客からコロナウィルス感染が認められ、そのまま下船許可を出さず、検疫をしながらの船内待機が2週間ほど続いたのも記憶に新しい。武漢以外の中国国内での感染拡大も確認され始めて、武漢在住日本人の帰国チャーター便が5便ほど手配され、2週間の隔離が実施されたのも周知である。
 当初はアジアだけの話であろうと欧米諸国は油断していたが、英国、フランス、ドイツ、オーストラリアなどにも発生し始め、その後イタリア、イラン、スペイン、少し遅れたが米国本土でも、同じ客船会社のグランド・プリンセスが感染者を出して西海岸に停泊し日本と同じ状況になっただけでなく、ニューヨーク市で急激な蔓延をみているのも直近の出来事である。
 このパンデミックの影響でかなり議論を読んだが東京オリンピック2020は開催を1年延期することとなった。
現時点では東京都心部で外出の自主規制が引かれ、それをより厳しい非常事態宣言にレベルを上げるかが、すでに起こっている経済的打撃を鑑みて問題となっているが、イタリアのローマ、スペインのマドリッド、ニューヨーク市のように東京がならないためにも、早いうちに感染拡大に一度大きな歯で目をかける必要があるのは、間違いないであろう。
 このようの悲観的な内容で2019年度の報告書を終筆する事は、甚だ遺憾だが、とにかく可及的速やかに国全体として対応し、1日も早い収束を目標とするしかないと考える。

以上